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新婚旅行 ---- 私が彼に出会ったのは、『元妻』との新婚旅行の時だった。 泊まったホテルのドアボーイに、私は一目で心を奪われたのだ。 妻との関係は一瞬で冷めた。新婚旅行からひと月も経たない内に私達は離婚した。 妻は私が他所の誰かに心惹かれていることを薄々気づいていたらしい。私が離婚を切り出しても 彼女は何も言わず、ただ全てを諦めたような顔で離婚届けに印を押した。 彼女との離婚が済んですぐに私は彼のいる地へと足を運んだ。 一刻も早く彼の顔が見たかった。 彼が私のことを覚えているとは到底思えなかったが、それでもいい。 私は彼をずっと見ていたい。彼の美しい顔、柔らかい微笑み、精錬された言動。 その全てを始終目に焼き付けておきたかった。 「お忘れ物ですか?」 私の予想に反して、彼は私のことを覚えていた。 なんて素晴らしいことだ。私は歓喜に打ち震えた。思わず零れそうになる涙を抑え、 彼の手をそっと取った。 「君に、会いに来ました」 あれから20年が経つ。今でも彼は20年前と同じホテルで、同じようにドアボーイをしている。 変わったのは、帰る場所が、私達の家になったことだけだ。 ----   [[老眼>27-439]] ----

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