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雨の中
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雨音にまぎれるようにして、あの人を乗せたバスが走り去ってゆく。
ぼたぼたと傘にあたって流れ落ちる音のほかに音はなくて、隣に突っ立ったままあいつも
俺も何も言わずに、夜の中に遠ざかるバスの赤いランプを眺めていた。
「……あは、はー」
終わったなこれで、やっと。へんなことに付き合わせてごめんな。
そう言おうとしてわざとらしい笑い声を口にだしたとたんに、唇が震えた。
目の奥がたちまち熱くなってきた。泣くつもりはなかったのに。
「よっしゃぁ帰ろ。こんな日は雨に濡れて帰るのが一番だ」
明るい声を絞り出したら裏返った。気付かれてないといい。
傘をたたむと、大粒の雨がつむじにあたってひんやりと頭が濡れてゆく。
雨だと思うには、目から流れてくるものはあまりにも熱かった。
顔をみられないように、わざと明るい足取りで歩いた。
雨に唄えばを唄おうとしたけど、歌詞もメロディーも知らないことに気付いて、
困った。あの人は知っていただろうか。
ふと名前を呼ばれた。
それから抱きしめられた。どしゃぶりの雨に濡れた身体に。
ばかだなぁ、お前まで濡れなくていいんだって。
そう言おうとしたら、いえなかった。涙が舐めとられていた。
「泣くな」
「ばか。雨だ、泣くわけないだろ」
「雨が塩辛いか」
確かにそうだ、そう言おうとしたけどキスをされていえなかった。
雨の中が存在をなぞるように身体を流れ落ちてゆく。雨音が耳の奥にしみこむ。
唾液やら涙やら、雨水やらわけがわからなくなった。
ただこの熱だけは、俺は失えないのだと思った。
顔をもっとよく見ようと思ったら、雨か涙か、にじんでうまく見えなかった。
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[[軽音楽部×バスケット部>2-329]]
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