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ナメクジとカエル ---- ぺたり、ぺたり、と近づいてくる足音に、ナメクジさんはあえて知らん顔を続けていました。 「やあ、ナメクジさん。今日はいいお天気ですね。」 「ああ、カエルくん。いいお天気だね。」 元気な声に初めて気付いたふりをしたナメクジさんに、カエルくんはにっこりと笑いかけます。 あじさいの葉の下で、ふたりは並んで雨の音に耳をすませ、大きな雨つぶを見つめました。 「もうすぐ夏ですね、ナメクジさん。」 「ああ、そうだね。この雨がやんだら、もうすぐ夏だ。」 「ねえ、ナメクジさん。夏になったら、」 カエルくんが言いかけた時、まっくらな空から、とつぜん大きな音と光がふってきて、あたりを明るく照らします。 「わっ。」 「なんだ、きみはまだかみなりがこわいのか。」 ナメクジさんは少しあきれたように言って、ほんの少しだけカエルくんのそばへ行ってやりました。 子どものころのカエルくんは、それはそれはおくびょうで、かみなりが大のにがてだったのを知っていたからです。 それはもうずいぶんと昔のことで、カエルくんがまだ今のように大きな体も足も持っていない、 ナメクジさんよりもっと細くて小さくて、ふたりがまだ出会ったばかりのころのことでした。 「きみも大人になったのだから、いつまでもこわがっていてはいけないよ。」 やさしく言って聞かせながら、ナメクジさんは空を見上げて、どこかさみしそうな顔をしました。 けれど、てれくさそうなカエルくんはそんなことには気づかずに、うきうきした顔でナメクジさんに言います。 「ところで、ねえ、ナメクジさん。夏になったら、ぼくは海に行こうと思っています。」 「ほう、海へかい。」 「このまえ、旅のトカゲさんに聞いたのです。海というのはすごく大きな水たまりだって。」 カエルくんはとても楽しそうにそう言います。ナメクジさんはずっと雨のほうを見つめていました。 海というのは、ナメクジさんも聞いたことがありました。とても大きな、塩の水たまりのことです。 「だから、ナメクジさんもいっしょに行きませんか。」 「うん、そうだね――。」 「トカゲさんが言っていました。海というのはすごくきれいなところだって。」 「うん。」 「ぼくは、ナメクジさんといっしょに、すごくきれいな海を見たいなって。」 ナメクジさんは考えました。カエルくんはきっと、夏が来たらほんとうに海へ行くのだろうと。 見たことはないけれど、夏の空の色がにあうカエルくんには、きっとその海の色だってにあうだろう。 今のカエルくんにはどこへでもとんで行ける力がある。きっとその大きな海にも、ほんとうに行けるだろう。 あんなに小さくておくびょうだったカエルくんが、じぶんから外のせかいを見に行こうとしている。 それはなんてすばらしいことだろう。たとえばその時が、カエルくんとのおわかれの時になったとしても。 「――ぼくも、カエルくんと海が見てみたいよ。」 「やったあ。それじゃあ、やくそくですよ。」 大よろこびするカエルくんに笑ってみせて、ナメクジさんも一生けんめいよろこぼうとしました。 せめてこの雨がやんでしまう前に、カエルくんと同じきもちでよろこんでみせたいと、ナメクジさんはそう思いました。 ナメクジさんの小さなうそをゆるすように、雨の音はわずかずつ、弱まっていきます。 夏はもう、すぐそこまでやって来ていました。 ---- [[旅行先で出会った運命の人>26-819-1]] ----

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