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RPGの中ボス ---- つまりは中間管理職なのか。いや、もしかしたらそれよりも下の立ち位置か。 「可哀想だよなあ……」 「はあ?」 コントローラーを握りながら思わず呟いた俺を、先輩が怪訝な顔で見返した。片手には缶ビール、片手には煙草。週末の午後11時。 「いやコイツ、可哀想じゃないすか。魔王にこき使われて、勇者に倒されるためだけに出てくるとか」 「別に可哀想じゃねえじゃん。悪いことした悪い奴なんだから倒すだろ普通に」 「えーだって、魔王に命令されたら逆らえないじゃないすか。怖いし」 「嫌だったら逆らえばいいんだって。嫌じゃないからやってたんだろ」 「えー……」 なおも言い募ろうとする俺を無視して、先輩は美味そうにビールを煽っている。風呂上りの髪から雫が垂れた。 「てかさ、まだその中ボスとやってんの。俺が風呂入る前からずっと動いてねえじゃん」 「可哀想で倒せないんすよ」 「嘘つけよ」 まあ嘘です。2ターン攻撃が地味に効くんです。あと先輩がちゃんと薬草用意してないから買い直しに村に戻りました。 可哀想と言えば俺もなかなか可哀想だ。ほんの3時間ほど前に激務の1週間がやっと終わって、 よーし羽根伸ばすぞーと思った矢先にその足で先輩宅に連行され、今度は中ボス退治のお仕事を任命されてなぜか画面の前から動かしてもらえない。 これが終わるまで俺はビールも風呂もお預けだそうな。おいおい魔王か。そしてなぜ俺は断らないのか。中ボスだからか。 「ていうか先輩、中ボス戦になる度に俺のこと呼ぶの何回目すか」 「忘れた」 「えー」 「おいちゃんと回復しろよサマンサ死にそうだぞ」 「はいはい」 ゲームの中の踊り子のHPは気にかけてくれるのに、俺への扱いは相変わらずひどくぞんざいだ。 湯上りの匂いとか、露わな喉の動きとか、真横にある体温とか、毎度のことながら画面に意識を集中させるのが大変なのに。 「よし、とどめだ!」 「はいはい」 無神経な先輩は俺の肩に身を寄せるようにして画面に見入り、高らかに指図する。美味しいとこだけそうやって。 お前もこんな気分だったのか、なんて同情しながら必殺技を選択すると、軽快な音楽と祝福のメッセージがあっけなく画面に流れた。安らかに眠れ。 「……あーやっと終わった」 「はいよお疲れ。ご褒美だ」 「ごちです」 冷えたビールはちゃんと俺の好きな銘柄だった。先輩のとは違うからわざわざ買ったのだろう。ああこれ飴と鞭だなあ、と思う。 「中ボスもきっとこうやって魔王に使われてたんだなと思いました、今」 「ビール支給してくれるとか超優良魔王じゃん」 「はいはい」 「お前そればっかな」 何かのツボに入ったのか先輩は妙なくらいのテンションで大笑いした。笑いすぎとアルコールで顔が真っ赤になってもまだ笑っていた。 そしてひとしきり笑った後で、あーあ、と苦しそうに息をついて、ほんの一瞬だけ黙った。その一瞬の隙に、耳元を酒臭い息が掠めた。 「中ボスがなんで魔王に逆らえないか、本当のこと教えてやろうか」 「……はあ、なんででしょうね?」 問い返す声は我ながら白々しかったかもしれない。手のひらが汗ばんで、コントローラーを思わず取り落とす。先輩がまた笑う。 「怖いからとかじゃねえんだよ、本当はな、」 魔王のことが好きだからだろ。 耳の中に直接吹き込まれたのは、とっくのとうに知っていた答えだ。会心の一撃。俺の理性は死んでしまった。 やっぱ可哀想じゃねえや、中ボス。自業自得だわ、これ。 ---- [[RPGの中ボス>26-559-1]] ----

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