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ドライブ ---- 濃い海老茶色の列車が走る地下鉄の駅の階段を上がりながら、連れが楽しげに声をかけてきた。 「本日の乙女座の幸運の鍵は『ドライブ』やって」 「あぁ、朝のテレビな…。山羊座は『いつも行く場所でも、違った道を通るのが吉』とか言うとったな」 「乙女座と山羊座の結果ってなんか似ることが多いんやなぁ。同じ研究室のオカルト娘もそんな事言ぅとおわ」 たわいもない話をしながら少し歩いて、100円の自販機・500mLのミネラルウォーターを2本。俺は片方を相手に手渡した。 「ふーん。あ、ありがとぉ。で、どないする?ドー、ラー、イブっ」 「どないしようもないやろ。俺はペーパーやし、お前は免許も車もないやろ。  だいたいここ、俺らのお決まりのコースの日本橋やないか。こんなとこでレンタカーはもっと御免やからな」 そう、俺たちはどこからどう見てもヲタカップルってやつだ(男同士でもそう言うのかはおいといて)。 同じ大学・同い年、学部は違うが。 一回生の時にこいつが家に泊まりにきたときに、なし崩しに一線ってのを超えてしまってから、ずるずる二年近く今に至る。 ヲタのご多分にもれず俺も『三次は惨事』、ってのが持論だったんだがなぁ。 まぁ俺は、キモい…とはいかないまでもチビで冴えない外見だが、奴は今では死語になった…アキカジ…?まがいの 酷い服でさえも、逆に足の長さや目鼻立ちの良さが目立つ、という違いはあるけれども。 こいつが俺と二重の意味で同類で、おまけに俺を相手にしてるってことが…時々世の中、わからんもんだ。 駅から俺の目的地のソフト館までの道、携帯屋の並ぶいつもの大通りを避けて、細道を歩く。 「あ!」 何かを見つけた、と言った風情で、奴は。 「俺、今日の幸運の鍵、見つけたわ」 でかい体や長い手足を気にもせず、とてとてっと転びそうになりながら店頭の看板に駆けていく。 …萌えどころなのかもしれんが、これは周りの人の迷惑になるから是非止めてほしい行為だ。 「…なんやそれ」 「DVD『ドライブ』。ノートの外付けのん、書き込みできるのにしたかったんやけど…これは底値2000円以上割っとぉ!  外箱に傷言うても、現行モデルの新品やし!」 俺は無言で、ギャグセンス皆無なこいつを、エターナルフォースブリザード(…これも死語か)全開な目で睨んだのだが。 「こっちの外付けHDD『ドライブ』も、いくら型落ちでも320GBでこの値段はありえへん。なー、買うてーなー」 ちまい俺の見た目では、効果がない。もともとそれが効くような奴でもないが。 「ハァ?ア ホ か!」 「どっちかでもええから。今金欠でなぁ。片方はPitapaの枠で落とせるけど、両方は無理やねんやんかー」 背後から奴が、俺の胴体に両腕を回して耳元に口をよせた。 「買うてくれたら、いつもよりサービスするし」 「…はいはい。『吉』、になるくらいなぁ」 こいつの学部は理系で家も遠い上、家も少しカツカツで小遣いも少ないから、どうしても手元不如意な時はあって。 そしてうちのじーさんばーさんの方針が駄々甘で、俺が小遣いにほぼ不自由しないのをこいつは知ってて、 ほんの時々こういう事があるのだ。 (ま、こんくらいならタカられてもええか。可愛いし、気持ちええし) 「あーあー、そういえば今日の山羊座は『浪費には注意』、て言うとったなぁ」 「浪費やないよ」 高い上背をかがめて、俺に上目遣いで目線をやりながら、奴は。 「この後の俺のサービスの方が、よっぽど得や」 (この年で円光親父の気持ちが解ってどないするんやろ、俺…) 俺は心の中でこっそり溜息をつきながら、財布を開きDVD±RW-RAMドライブの方をレジに持っていった。 二人とも目当ての買い物を済ませて、帰途につくべく、俺たちは先ほどとは違う駅…こんどは赤の列車が走る地下鉄駅への 階段を降りる。 「…とは、無駄金なんか使わせんでも、俺は…」 「どうした?疲れたんか?」 いくら目当ての物を買えたといっても歩き疲れなのか、奴が小声で何か言った。俺は聞き取れなかった部分を聞き返す。 「目ぇ一杯サービスせんならんから、体力を温存しとぉだけや」 あいまいに笑い返してきた。こいつは時々こんな顔をする。  ヘタレ低身長ボンボン攻×ベタ惚れ長身受。 ---- [[ドライブ>12.5-969-1]] ----

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