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最後の一つ
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そうだ。例えばの話をしようか。例えば君が、僕の好きなあれもこれもを持っていなかったらって、そういう話。
君がもし、レトリバーみたいな黒くて優しい、大きな瞳をしていなくても。
君がもし、くしゃくしゃ撫で回すといい匂いのする柔らかヘアをしていなくても。
君がもし、つまらない冗談もウィッチなジョークに変えてくれる、賢い頭を持っていなくても。
君がもし、君がもし、君がもし。
君がもし、何もかも持っていなくても、それでも僕は信じている。それでも君は、きっと。どんなに君から
君である証を削り取っていっても、最後にひとつ、君の心は変わらないで君のなかに残るんだって。
それでもきっと君は、僕がどんなにみっともない姿をぶちまけても、ふくれて、笑って、最終的には許して
くれるって。ちょっと怒ったふりとかをしながら、僕の情けない部分も全部、受け入れてくれるんだって。
君が僕の好きなあれやこれやをなくしても、そういう優しさが最後にひとつ、君の心に残っているんなら、
僕はそれだけで迷わず君にキスできる。
だからその「もしかしたら」の君に、今君が持っている何かがいくら欠けていたって、僕は構わない。
……馬鹿な話だと、笑ってくれても構わない。
恋でもなく愛でもなく、だけど君を誰よりも愛している。たった一つ、その優しさを君がなくさない限り。
だから僕もそういうふうに、君にとってのそういう誰かになれるよう、一生懸命生きていく次第であります。
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それがただひとつ、あいつがさいごに俺に残していった言葉。
日付はたった一月前の、きっと誰にも見せる予定のなかった日記帳。その一ページ。
名前なんてどこも書いていないけど、うぬぼれではなく俺にはわかる。これはきっと、俺への言葉。
確かに俺はそうだった。
いつもいつも、あいつのおどけた姿を見るのが好きだった。そしてそれをいつも見過ごさないで、そんなあいつの
相手をしていた。好きだったんだ。そういう、ふざけてばかりで、本当はとっても臆病な、あいつの何もかもが。
好きだったんだ。
好きだったのに。もう俺はお前のためには何もできなくなっちゃったんだな。それがただ悲しい。
最後にひとつ。
伝えとくことがあるんだ。……お前は俺にとって、お前の言うところの「そういう誰か」なんだってこと。
だから安心して、待っていて欲しい。
あと何十年かかるか分からないけど、俺もお前がさいごに言ったように、「一生懸命生きていく次第」だから。
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[[最後の春休み>12.5-869]]
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