「12.5-839」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

12.5-839」(2013/08/15 (木) 01:37:29) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

王佐の才 ---- 世は乱れた。 かつて、あまたの犠牲の上に築かれた体制は時を経て形骸と化し、 既に民の不満を抑え込むだけの力を持たなかった。 空白となった権力の座を巡って群雄が相争い、至るところが戦場と化した。 そんな時代に生を受け、戦乱で二親を失った少年がいた。 市で一切れの餅を盗もうとして折檻されていたところを、通りすがりの男に拾われた。 男は無位無官、当時手勢数百の頭に過ぎなかったが、 いずれこの国を統べるのだと夢を語った。 少年は男について行くことにした。景祥という名をもらった。 まったくの無学だったが、雑務の合間に男から読み書きを習い覚えた。 生来聡明であった景祥はその後多くの師に学び、長じて男の片腕となった。 神算鬼謀をもって勢力を支え、他の股肱達と力を合わせて版図を広げていった。 そしてついには天下を平定し、男を王の座に押し上げたのである。 王朝樹立後、景祥は宰相として新体制の整備に奔走していたが、 積年の疲労がたたって病に倒れ、ほどなく危篤におちいった。 振り返ってみれば、短くとも実に幸せな生涯であったと景祥は思った。満足だった。 この身を捧げるに相応しい男と巡りあえただけでも、どれほど幸運だったか知れない。 同じ夢を見た。ともに戦い抜いた。志半ばに散っていった者も多かったが、 生き延びて夢の結実を目にすることさえ叶った。私は本当に果報者だ。 これで今一度我が君にまみえることができたなら、どんなにかよかっただろう。 しかし、もうその時間の残されていないことを景祥は知っていた。 死の床で側近に後事を託し終えると、末期の息に主君の名を呼んで、静かに事切れた。 景祥の死は王の胸をえぐった。片腕と恃む腹心であり、 誰よりも愛した掌中の珠を、もぎとられるように失ったのだ。 心痛から政務に障るほど酒に溺れるようになり、次第に臣民の心は離れていった。 この分では、遠からず戦乱の世が戻るだろうと囁く者さえ出始めた。 そんなある日のこと、王のもとに一通の書簡が届けられた。 景祥の手によるものだった。 遺品の整理をしていた家人が見付けて、王に奉じた。 王のものとよく似た癖のある筆跡で、最後の思いが切々と綴られていた。 王は堪らず泣き崩れた。人目も憚らず、子供のように声を上げて泣いた。 泣いて泣いて、この国こそが自分達の夢であったことを思った。 以来、王は我が子のように国を慈しみ、善政を敷いたという。 後世に希代の名君と讃えられた王と、その偉業を支え続けた忠臣、景祥の物語である。 ---- [[追う者×追われる者>12.5-849]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: