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同じ顔同士
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ばかな話だと思った。自分と同じ顔をしている弟に見惚れるだなんて、ばかな話だ。
好きな人がいるんだ。 双子の弟が、そう私に告げてきたのは、つい先週のことだった。
同じ月日を一緒に過ごしてきた仲だというのに、それまでにそういう話を打ち明けたのは、弟も私も初めてだった。
私にはそれに理由があった。同性愛者だということを知られてしまったら、軽蔑される、そう思っていた。
(今思えばなぜもっと早く気づかなかったのだろう。私と彼は同じ細胞でできているということに)
弟に好きな人がいるというのは、単純な気持ちで嬉しかった。
少しでも力になってやろうと、私は照れながらも、相手の名前を聞いた。
弟が口にしたのは、私が交際している男だった。
唖然としている私に、弟は続けてこう言った。
「あの人と、兄貴が、好き合ってるのは知ってるんだ」
「ごめん」
「でも 俺もあの人が好きなんだ」
「この気持ちだけは」
「この気持ちだけは誰にも負けない」
そのときの彼の顔は、今まで私に見せたことのないものだった。
美しかった。
同じ顔で、同じ細胞を私は持っているはずなのに、こんなにも美しい強さを私はそれまでしらなかった。
私は逃げ出した。その場から、あの人から、自分から。
私と弟は、互いの名前を交換した。もう、元には戻れないのだ。私も、彼も。
あの人は、きっと気づかずに、弟の、いや、兄の隣で笑っているのだろう。
あいつも今ごろ、あの人の隣で笑っているのだろうか。
2人笑いあう姿を想像してみたが、先週までの自分とあの人の姿が蘇えるだけで、不思議と妬みは生まれなかった。
なんだ、こんなものか。そう吹っ切れてみると同時に、一滴の水が頬をつたった。なんだ、こんなものか。
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[[来るの遅過ぎだよ>12.5-819]]
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