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青より赤が似合う ---- 放課後。 「ねえ」 あきれた君の声。 「いつまでかじりついてんの」 これ見よがしの溜息さえ、夕暮れに似てこの胸を鮮やかに染める。 目印を残して僕は厚い本を閉じた。朱に透ける瞳はまるで、何かの監視員気取り? 「信じらんない。もう間に合わない」 「そんなに見たいドラマなら、どうしてさっさと帰らないんだ。机にかじりつこうが図書室に根を生やそうが、とにかく俺の勝手だ」 「ちょっと! どこ行くんだよ!」 よく喋るから無駄が多い。身振りが大仰だから行動が鈍い。鞄を掴んだ君はやっと、僕が廊下を抜ける途中で追いつく。ほら、加減なく後ろ手を掴む。 「待てよ!」 「おまえこそ『どこ行くんだよ』?」 「どこ、って……」 いつも明るいから沈黙が深い。さっき綺麗だと思った夕焼け色の瞳がさっと伏して、けれど弾かれたようにまた僕を見上げた。長いまつげ。 「おまえが教えてくれないから俺は、どこにも行けないんじゃないか」 僕を睨む。鬱陶しい前髪をかきあげながら……かきむしりながら、君は、君が。 「あのときあいつ、何か言った。最後の言葉なんだ。俺に言ったに違いないんだ」 君が僕を。 「それ、やめてくれないか」ふいに、僕は言った。 「え」 「ほらまた。そうやって髪をかきあげる」 「え、なに……」 「おまえ以前はそういう癖、なかっただろう」 いつか僕は唐突に気づいた。奴の仕草が君にうつった。奴の気さくな性格を心に宿して、君はそれを恋と知った。 再放送のドラマ。苦手なブラックコーヒー。似合いもしないブランドの鞄。なぜあの日一緒に燃えなかった。バイクもトラックも燃えた。アスファルトは黒くただれた。 駆け寄った僕に、奴は何事かを語った。声にはとうとうならなかった。 あの唇は何と動いたろうか。読唇術? まさか。まさか。僕に読めるわけが無い。 「髪? そんなのいま関係ない……、おい、触んなよ!」 「赤」 「ちょ、み、耳! 触んなってっ……え?」 「赤がいいって」 夜によく映える、深い青が美しい、自慢のバイクは炎に消えた。 「赤いピアスのほうが似合うのにって、言ったんだよ」 ---- [[てるてる坊主と雨男>12.5-639]] ----

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