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ヒゲ ---- つ、と伸ばした手で顎を捕らえる。 親指の腹でやんわり撫ぜると、ざり、とした髭の感触。 ――嗚呼。 オンナノコのような横顔に欲情したのは遠い昔の話、青春期の気の迷い。 だってあの頃コイツは可愛かった。そこいらの女よりよっぽど可愛かった。 「…なに?」 怪訝そうな声に、はっと我に返る。 「…あ、いや。…ヒゲ、が」 「髭?」 「……お前でも生えるんだなぁ、と…」 「あァ?俺だって髭くらい生えるさ。当り前だろ、こんな時間だし」 ガキの頃はともかく、そう言って苦笑する。俺の手に顎を預けたまま。 …手を放すタイミングを完全に逃した。 指先に、ちくちくと刺さる、むず痒いような刺激。 ――自分は男だと、俺に主張するように。 そう、ガキの頃ならともかく、だ。 女のような白い首筋、細い腕。 あの日の横顔。夕陽を受けてきらきらと金色に輝いた産毛。 あの頃のあの衝動だけなら、気の迷いと笑って済ませられたものを―― 「お~い、酔ってんのかァ?」 いつまでも動こうとしない俺の手を、それでもコイツは振り払わないまま ぴた、と俺の頬に手を添えた。 悲しいまでに骨張った、男の手。 「…お前も髭生えてんよ」 「……そりゃぁネ。」 ――嗚呼、それでも俺は。 気の迷いと呼ぶには確かすぎる熱を今も持て余している ---- [[王子×厳つい護衛 >12.5-549]] ----

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