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永遠の命 ---- 吸血鬼が、言った。 「お前の血を吸わせて」 って。 俺たちが高校で出会ってもうすぐ三年になる今年の夏、一番の親友で恋人でもあるこいつが 自分が吸血鬼だと奇想天外な告白をしてきた次の台詞が、これだ。 吸血鬼に血を吸われると仲間になって、永遠の命を得られるらしい。 「え……やだよ」 「即答かよ!」 「だってぇ、痛いんだろー?」 思わず俺は通販番組のサクラのような口調で上目遣いになる。 「痛くない!ちょっとチクっとするだけだし」 その上今なら不老長寿の特典までついて、お値段なんと一万円!とか言い出しそうな口調で 答えられた。どこかで聞いたような台詞だと思ったら、俺が同じことを言って ベッドの上でこいつを丸め込んだのも、そういえば夏のことだった。因果応報とはこのことか。 いや、違うだろう。頭が混乱して全く関係のないことを思っている。 「うーん」 俺は考え込んだ。確かに、幼い頃に両親を亡くした俺には家族と呼べる存在はない。 だから俺が転々と居場所を変えていれば、いつまでも年を取らないことを不審に思う人は ほとんどないだろう。そういう点では吸血鬼向きだ。吸血鬼に向き不向きがあるなら。 「大丈夫、俺らの年なら五年くらいならそんなに見かけも変わらないから! 大体お前だって、三年間一緒にいて全然気づかなかっただろ」 そういえば、こいつの華奢な体型も、今も俺より少しだけ高い背も、子供のように細く茶色の髪も この三年間全く変わっていなかった。俺は単純だから、そういう自分の好みの外見が 変化しないことを嬉しく思ったことはあってもそれ以上考え込んだことはなかった。 「それはそうだけど……」 そんな重大事をこんなに軽いノリで決めていいものだろうか、と思いながら俺は目を落とした。 「たいしたことないって!」 満面の笑顔で目をキラキラさせて言っているこいつの手が、俺のベッドの白いシーツをつかんで かすかに震えていることに気づいた。 「最近はドラキュラハンターなんていないから気楽に暮らせるし、五年って結構長いから 友達もできるし、色んな土地見れるし、だいたい永遠に生きられるんだからあくせくする必要が 全くないし!」 調子のいいセールストークを続ける口と、不安そうに震える手。 目を上げて目線を合わせると、茶色っぽい大きな目も一瞬震えて俺を見た。 「……だから、ついてきて」 そう呟くように言うと、とうとう黙って下を向いてしまった。 「お前はさ」 俺はしばらく考えてから言った。 「俺がいないと、寂しい?」 驚いたように、大きな目が俺を見る。吸血鬼の目って赤いものだと思ってた。なんとなく。 でもその目は薄茶色いだけで、普通の人間の目と全く変わらない。 「……寂しくて、生きていけない」 永遠の命を持つ吸血鬼が言うにしては、おかしすぎる言葉だったけど、俺は笑わなかった。 「じゃ、いいよ。吸え」 Tシャツの首をひろげて、差し出す。 「えっ……ほんとにいいの?!」 あれだけ自信満々に吸血鬼の素晴らしさを語っていたのに、信じられないみたいな顔をして 俺を見るこいつを、可愛いと思った。 「俺も、お前がいないと寂しいから。どうせ五年ごとに引っ越すなら 俺も吸血鬼になった方が便利だろ」 なんとなく照れくさくて、どうでもいいような理由をくっつける。 言ってしまってから、本当は最初に聞いたときから自分はこうしたかったのだと 気づいた。永遠の命だの吸血鬼だのに関係なく、いつまでもこいつと一緒にいたかったのだと。 「……ありが、とう……」 俺は突然泣き出した吸血鬼に驚いて 「ほら、早くしろって」 自分から首を押し付けて、ちくっとする痛みを感じながら、ただ目の前でゆれる 細くて茶色い髪を撫で続けていた。 ---- [[やらずの雨>13-139]] ----

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