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無口で無愛想な受け
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とても静かだった。
でも、その場が冷え切っているわけでもないし、別に重苦しくも感じない。
ただ、声が聞きたかった。彼の瞳の色を、真正面から見たかった。
「本、面白いかい?」どう話かけようと迷った結果、情けなくも、出遅れた質問をすることにした。
彼の視線はまだ本のページに落ちたままだ。返事もない。
けれども、一瞬 曲げた眉毛が、今 話しかけてくるな、と訴えているように思えた。
僕は彼がこちらを見ていないことを知りつつも、わざとらしく肩をすくめた。
「僕も何か読もうかな」と、どうでもいい独り言をいってから、棚に並んでる本を適当にとる。
彼の前の席に座り、本を読むふりをしながら彼の顔をちらりと見た。
彼は美しい。
白い肌に、落ち着いた茶色い瞳。睫の影が目元に落ちている。
色素の薄い顔色とはうらはらな黒色の髪も、不自然ではない。むしろ、より魅力的に見える。
彼を見ていると、自分が汚いように感じてしまう。まわりの皆もそうだろう。
だから皆、彼を避けるのだ。自分を傷つけないために。
僕も彼の美しさに恐怖を感じないわけではない。
あの目に睨まれると、きっと僕は自分の惨めさに泣いてしまうだろう。
それでも僕は彼に惹かれている。少しでも、彼に近づきたい。
「これ」
「え」
え、なに、と思った瞬間、僕は自分の心臓が止まったのではないかと思った。
声の主が、今 目の前座っている、彼だったからだ。目があう。
「どうしたの?」声が裏返ったような気がしたが、もう、わからない。自分が、わからない。
「この本の主人公が」彼の視線はまっすぐ僕にむいている「君みたいだと思った。」
それだけ、と言ってから、彼は席をたって、棚に本を戻しにいった。
僕は呆けた。彼が、僕に喋りかけた?
僕は今まで、彼が授業中に本読みを当てられたときしか、彼の声を聞いたことがない。
たしか彼が読んでいた本は、ハードカバーの推理小説だったと思う。いや、本の種類は関係なくて、
彼は今、なんと言った?主人公が、僕のようだ?そんな、だって、ありえない。
僕は彼に自己紹介しただろうか?クラスが同じだから、苗字くらいは知っているだろうけど、
いつも僕が一方的に話しかけているだけで、彼と会話らしい会話はしたことがない。
なぜ彼が「僕らしい」を知っているのだ。
彼は僕が思っているよりずっと、僕のことを見てくれていたのか?
ああ待て、自惚れるな、落ち着け。本の主人公の外見の描写が、僕らしかっただけかもしれない。
外見?黒髪の中肉中背、とくに特徴のないような個性0の顔をした人間が、他に何人いる?
うああ、と訳のわからない声を小さく吐き出しながら、僕は頭をかかえておでこを机にくっつけた。
落ち着け、落ち着け。彼は一言二言喋っただけじゃないか。自意識過剰なんて気色悪い。
自惚れた考えを消して、深呼吸して、もう一度冷静になって考える。
彼はとくに深い意味で言ったわけではない。けれど、彼の中に僕が存在することは確かだ。
それだけで満たされた。顔が自然とにやける。しばらく机に顔を突っ伏したままにしなければいけない。
彼は棚に本を返したら、また僕の前の席にくるのだろうか。
そのとき、何と話しかけよう。次は無視されるだろうか。それでもいい。
しつこく彼のそばに居つづけてやろう。それで少しでも彼に近づけるのなら。また話しかけてくれるなら。
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[[ネタばれ>11-579]]
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