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甥っ子×叔父さん
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「おじさん結婚しないの」
19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。
「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」
「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」
「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。
それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」
小指を立てて聞いてみる。
「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」
「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。
今のうちにいい子つかまえとけよ」
「……んん」
アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。
しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。
時の流れは恐ろしいほど早い。それにしてもずいぶん大きく育ったものだ。
我が家の家系から180越えが出るとは思わなかった。
「今お前に乗られたら骨折れそう」
「乗るって……えっ、ちょっと、何言ってんの急に」
「昔、お馬さんごっことかしてやったなーと思って。
お前、『歩け歩け!』って言いながら尻叩いてきたから痛かった」
「あー、なんだ。そういうことか。っていうかいきなり何年前の話してんだよ……」
赤面して決まりが悪そうにしている。こういうところを見るとまだ子供らしいなあと、つい笑ってしまう。
「他には……そうだ。ぐるぐるとかよくやったな」
「回してもらうやつだっけ。それすげー好きだった気がする」
ぐるぐるとはその名の通り、後ろから相手の腰の部分を持って抱き上げ、ぐるぐる回すという遊びだ。
こいつは数ある遊びの中でも、なぜかこれがお気に入りだった。
疲れてやめようとすると、もう一回だけお願いと半泣きでせがまれたっけ。
満足するまでやらされたおかげで、よく腕が筋肉痛になった覚えがある。
今の俺では、回すどころか持ち上げることすらできそうにない。
「懐かしいな。あれ、そんなに楽しかったのか?」
そう問いかけると、いきなり立ち上がって俺の背後にまわり、脇の下に手を入れて持ち上げられた。
「なんだよ」
「いいから」
されるがままに立ち上がると腰に腕をまわされ、ひょいと抱きかかえられた。
フローリングに足がつかない。
「だから何やってんだって」
「昔のお礼。おじさんも体験してみたらいいんじゃない……っと!」
そう言って笑うと、その場でぐるぐると回りはじめた。
こちとらいい年したおっさんなので、当然ながらまったく嬉しくない。
ぶらんと揺れる自分の足が家具に当たりそうでひやひやするだけだ。
1分ほどされるがままになっていたが、気が済んだのか床に下ろされた。
だけど腰にまわされた手はまだ外れない。
「どうした? もう気が済んだろ? 暑いからさっさと離れろ」
「……やだ」
身体の隙間を埋めるようにぎゅっと密着してきた。背中から心臓の脈打つ音が伝わってくる。
どくどくという速いリズムにこちらの心臓もなぜかつられそうで、離れようともがく。
「やだって子供か! 離せって。おっさんにくっつくと加齢臭移るぞ!」
「まだ子供だし。ぎりぎり未成年。それにおじさん加齢臭しない」
耳の後ろにやわらかい感触と、においをかぐような気配があった。
見えないけれど多分鼻と唇が当たったのだろう。
生暖かい息が耳にかかってぞくりとする。
「彼女つくる予定ないなら、俺といっしょにいてよ」
続けて、おねがい、と言った声は少し震えていた。
同性で親子ほどに年が離れていて、しかも血縁と関係を持つことなんてできるはずがない。
だけど昔のように、結局俺はこいつの言うことを聞いてしまいそうな予感があった。
どうやったって俺はこいつの泣き顔とお願いには勝てないようにできているのだ。
子供のときと変わらない、高い体温の身体に抱きしめられながらそう思った。
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[[社長>27-039]]
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