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些細なことで嘘を吐く ----  シーフのサラキは些細なことで嘘をつく。 嘘つきな男だと思われたいのだ。 自分は茶葉の目利きの天才であるとか、 この先の教会は十字の代わりに矢印が飾ってあるのだとか、 水竜のなめらかな背中は怒るとトゲトゲが出るのだとか。 すぐばれる嘘を、法螺を、軽やかに揺れる赤毛と 道化た手振りに乗せて日々繰り出している。 真摯な男だと思われてはたまらない。 いつか一番大事な場面で、 彼が大事なもののために命を投げ出す時に、 彼が思わず本音をこぼしてしまうだろう時に、 あいつのことだから本気かどうか分かりゃしないと、 笑い飛ばしてほしいのだ。 彼が心と剣を捧ぐ主に。 &color(gray){****} その日も、冗談で場を盛り上げていたサラキは いつの間にか酔いつぶれてしまった。 宿屋の酒場。 パーティーの仲間や荒くれ男たちが飲み騒ぐ中。 吟遊詩人があぐらをかき、チェチリアオルガンがゆったりとサーガを奏でる。 今、戦いは遠い。 大きな暖炉がゆらゆらとあたりを橙色に照らす。 寝ぼけたサラキの顔はずいぶんと幼く見えた。 「ねえオレ、あんたの事ほんとにほんとに好きなんだよう……」 「ああ、わかっている。わかっている」 机につっぷしたサラキのひとりごとのようなそれを、 そばに座った金髪の戦士は笑って受け止めている。 「もうずっとついていくからね。あんたはオレたちの星。 お仕えするよ。あんたがいやだといっても、ずっと。ずっとだ……」 「そうしてくれ、サラキ。私とともに。」 戦士は、ごくりとまたひとくち酒を飲んだ。 入口でわっと歓声が上がり、踊り娘が店に訪れたのを知らせる。 完全に寝こけてよだれを垂らすサラキの頭を、 戦士は幼い子にするようにポンポンと叩いた。 「また、明日にはすっかり忘れているのかな」 戦士は唇に笑みを刻んだ。 罪のない嘘も、戯れも、 今夜の告白にはひと粒も宿らないことを知っているのだ。 ---- [[踏み台>26-319]] ----

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