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待つほうと待たせるほう
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僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
取りあえず30年、待ってくれるか?
そしたらお前は47歳になってるかな。
そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
長々とごめん。じゃあな。】
…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。
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[[月と太陽>26-249]]
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