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甘えていいよ ---- 頑張ってるところを見せたくない。心配させたくない。 人前に立つ仕事をしている彼は、俺と食事をするたびに、いつものふわふわとした口調を一転させてそういう。 ファンの子たちの前では『理想のケイくん』でいたいんだそうだ。 ちら、とすっかり眠りこけているケイを見る。 ここのところ激務だったらしく、前見たときよりも明らかに痩せていた。 元々かなり細いのに、このままだったら消えてなくなってしまうんじゃないか、って不安になるほどに。 人差し指で、茶色くてさらさらの前髪を弾く。長い睫毛が微かに震えて、どきっとした。 起こしてしまったかな、と思ったけれどそれは杞憂だったようで、ほっと胸を撫で下ろす。 もちろん顔だけで彼を好きになったわけじゃない。 可愛らしいのに男前なところがあったりとか、ファン想いなところとか、優しいところとか。 あげていったらキリがないくらい、好きなところはたくさんある。 でもやっぱり、こうも分かりやすく痩せていると、心配になってしまう。 柔らかな髪の毛をそっと撫でて、俺は呟く。 「甘えて、いいんだよ。甘えてくれたら、精一杯甘やかしてあげるから。…それくらいしか、出来ないし」 目立った特技もなければ、面白いことが言えるわけでもない。 そんな俺が出来ることといったら、全力で甘やかしてやるくらいだ。 そう思っていると、俺の手に、ケイの指先が乗った。 「っ、ケイ、起きて「それくらい、じゃないよ」 「…何…?」 「……俺は、彰に甘えさせてもらえるだけで、充分だよ」 彼は瞼を閉じたまま、ふっと笑う。 俺が泣きそうになったのは、その微笑があまりにも綺麗だったからだろう。 ---- [[ヴァンパイア>26-169]] ----

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