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いい声の人 ---- 「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。 曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。 す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。 滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。 ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。 旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。 最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。 上ずった低音の、嬉しそうな声で。 その声が隣の平凡な僕に向くことはない。 そう、思っていた。 「好きだ」 すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。 声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。 耳に湿った温もり。息の音。 背中には僕より少し大きな手。 「な、んて・・・」 ひっくり返りそうな、無様な僕の声。 「好き、って何が、を・・・?」 面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。 耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。 「好きだよ。君を・・・愛してる」 ---- [[最期を看取る約束>26-059]] ----

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