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鼻歌 ---- 風の強い高台の広場に、彼は立っていた。 足下には、薄っぺらいメタルプレート。 彼はその上にそっと花束を置く。 「……あなたって、本当にどうしようもない人ですね」 答える声はない。 「知ってますか?なにも残ってないんです。僕らの手元には」 語尾が震えた。風の音だけが辺りに響く。 「どうやって信じろって言うんですか!?あなたにもう二度と会えないなんて……っ」 笑顔で戦地へと立った男の顔を、彼が再び見ることはなかった。 彼の元へ届いたのは、男が永遠に還らないことを告げる一枚の紙切れ。 この場所に葬られたものは何もない。 ここには、同じようなプレートが見渡す限りに並んでいる。 「あんまり遅いと、あなたのこと、忘れちゃいますよ?」 笑おうとして上手くいかなかった。男の記憶が薄れつつあるのは事実だから。 「…あなたが教えてくれた歌の歌詞が思い出せないんです」 いつか男が教えてくれた、古い異国の歌。愛の歌だと男は言っていた。 彼は鼻歌でメロディをなぞる。 「僕は何も忘れたくない……だから、早く帰ってきてくださいね」 そして、僕にもう一度歌詞を教えてください。 涙混じりの鼻歌で辿る旋律は、風に紛れていつまでも続いていていた。 ---- [[おもらし>10-869]] ----

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