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ピアニスト×ヴォーカリスト ---- ツアーバンドピアニスト×ポップヴォーカリストで  ピアニストにとって今回が初めての大舞台だ。『彼』のツアーバンドに選ばれたのは 幸運だった。―彼の代表曲にはピアノが欠かせない。 この経歴は今後、自分の役に立つだろう。 ―コンサート準備の喧騒の中、『彼』が一心にピアノの鍵盤を見つめていた。 微かに口元を動かしながら。  ピアニストがそれに気づく。 「なにか気になることでも?」  ヴォーカリストが軽く舌打ちする。ピアニストを振り返って軽く睨みつける。 「……数えていたのに。また数え直しだ」 「88鍵ですよ。ご存知でしょう?」  ヴォーカリストは軽く片眉を上げる。 「さあ、この前はそうだったけど。皆もそう言っているけど…  皆、僕に嘘を吐いているのかもしれないし、変わっているかもしれないから、  毎回確認するんだ」 そして微笑む。あけっぴろげな、5歳児のような笑顔。    ヴォーカリストが今度は無事に数え終わる。 「やっぱり88本だったよ」彼はなぜか少し得意気だ。 「そういったでしょう?誰も嘘なんて吐いてません」  ヴォーカリストは唇の前に左手の人差し指を立てる。冗談めかした口調で小声で囁く。 「他の人には黙っててくれる? 疑っていたなんて思われたくないから。お礼はするよ」  それを耳にしたピアニストの口から、無意識のうちにつるっと言葉が滑り出る。  あの曲の最初の一音を鍵盤で叩く。 「なら、今夜はこの曲を、私に捧げて下さい」  ヴォーカリストは微笑み、頷く。  その夜、永遠の無償の愛を歌うその曲を歌うとき、ヴォーカリストは伴奏に聞き入って いるかのように、ずっとピアニストを見つめ続ける。  ピアニストは夢見る。その歌詞が、メロディではなく、喘ぎ声に乗って彼の口から零れる 光景を。自分の両手が、ピアノではなく彼の身体の上を走っていくことを。 ---- [[ミ/ス/タ/ー/ド/ー/ナ/ツ>10-789-1]] ----

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