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いつもの人 ---- 午前7時15分。決まった時間にその人は現れる。 「キャスター下さい」 「はい」 言われた銘柄をストックから取り出してレジのカウンターに乗せる。 小銭を差し出す指は爪の先まで整っていて、繊細な手というのはこういうのなんだろうと思う。 男の手ではあるけど。 お釣りを渡すと、ありがとう、と礼を言ってその人は立ち去る。毎朝の1分足らずの出来事。 スーツ姿も、その上にコートを着ても、少しの隙も乱れも無い、細身で背が高めの、サラリーマンらしい人。 この近所に住んでいるはずなのに、自分の周りにはいないタイプだ。 閑静な住宅街は、昔からある下町と、新興の住宅や低層マンションとが所々入り混じってる。 自分は前者、あの人は後者の住人なのらしい。 「大げさだけど、神様、もしいらっしゃるなら感謝します。  それと、いつもはうるさいとしか思わない町内会の取り決めも。  前者には、あの人の住居をここに定めて下さったことを。  後者には、町内にタバコの自販機を置かないと取り決めてくれたことを。  タバコの匂いと、それからフレグランスらしき匂いの入り混じった香りをかいで、  あろうことか年上の男性にうっとりしている自分は道を誤ったと思いますが、仕方ないです。  大学の講義が朝からある日は、あの人を見られなくて辛いので、  どうか神様、もうちょっとサービスして、来年の講義は全部2限目以降になるようにお願いします」 という馬鹿げた妄想をするのが止められない。普段は無神論者のくせに。 それもこれも、あの人のいい匂いと、閑静な住宅街の早朝という暇な時間帯が悪い。 幸せで、少しだけ苦い、いつもの時間。 ---- [[いつか終わる愛情に乾杯>12.5-219]] ----

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