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成人式or同窓会 ---- 来るだなんて、思いもしなかった。 心のどこかではなから来ないものだと思い込んでいたから、全く思考に掠めもしなかった。 小中を共にした懐かしい顔が並ぶ中に見つけた顔を、一瞬理解できなかった。 「おい立花、見ろよ。あいつ菊池じゃね?」 随分と頭身が高くなって、あの頃見下ろした目線が見上げた先にある。 女のような顔をしていた菊池は、男らしさが面差しに見え隠れする華やかな男になっていた。 そうだ。あの頃菊池はなよなよとして、友達も女ばかりだった。 男だか、女だかが曖昧なあいつが気に食わなくて、気持ち悪くて。 俺は、幼稚な残酷心でもって菊池をいじめ抜いたのだ。 「立花君」 式の半分は、やれ誰が可愛くなっただの、今どうしてるのかだの雑談を聞き流しているうちに終わった。 ざわついた会場の外で肩を叩かれ、俺は随分怯えた顔をして振り返ったように思う。 きんきんと耳障りだった声は、すっかり低く心地良いものになっていた。 「………き、くち」 元気してた?久しぶりだね。立花君変わったねえ、わかんなかったよ。 振り袖姿の女子がきゃあきゃあと、爽やかに微笑む菊池を見て騒いでいる。 お前、そんな風に俺と喋ったことなんかなかったじゃねえか。そんな顔したことなかったじゃねえか。 オトコオンナと囃し立てて、それにべそべそと泣くしかなかった菊池を見ると胸がすっとした。 同じ分だけ、もやもやとした。悪循環ばかりで、その関係に友情の欠片もなかった。 思春期の悪乗りで、俺は菊池の下着を剥いだこともある。 今思えば、何がそんなに楽しかったのかさっぱり分からない。 ただ、もっと違う接し方だってあったはずなのに。あの頃の俺にはそれがひどく難しいことだったのだ。 「……俺、」 「立花君?どしたの?」 掌にじわりと汗が滲む。ネクタイで締まった襟元が苦しい。 菊池はずっと笑顔だ。何事もなかったように。 俺は、何事もなかった顔をして、いいのだろうか。 昔はバカやったなあ、ごめんなあ、なんて。 酒でも飲んで、いや俺お前と友達になりたかったんだけどさあ、なんて、 「覚えてる?」 大人びた指が伸びて、俺のネクタイを何気ない仕草で緩める。 すっと、呼吸が楽になった気がした。 「俺は忘れたことないよ。今まで、一日だって、眠ってるときだって。 彼女のこと考えるよりも、立花君のこと考えてた」 つい、と人差し指が首筋を撫でた。 優しく、綺麗に笑う菊池を目の当たりにして、俺は取り返しのつかないものを失ってしまったことを知った。 ---- [[@田舎>12.5-129-1]] ----

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