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手をつなぐ ---- 手袋を持ってきて良かった、と帰宅時間を迎えた岩田は心底思っていた。 登校しようと玄関のドアをあけた岩田の目に、一面の銀世界が飛び込んできたのは今朝のことだ。厚手のコートだ けではもう駄目だと判断し急いで室内に戻り、手袋とマフラーを押入れから引っ張り出したことを思い出す。それか ら半日。岩田は帰り支度をしながら玄関へと歩いていた。廊下の窓の外では、今朝より一層激しく雪が降り続けて いる。玄関の扉に手をかけた岩田に、 「今、帰り?」 後ろから、同級生の声がかかった。 「おぉ、北村。…おまえも?」 「うん、一緒していい?」 頷いて、許可を示す。嬉しそうに笑った北村に促されて、岩田は外へと足を踏み出した。 大粒の雪が降る外は人通りはなく、防寒具を通しても寒さが伝わってきた。自然と北村との距離が近づく。大の男 二人の影がくっつくのを、岩田は気恥ずかしく思った。 「あ~さむ…。あれ?」 不意に疑問の声をあげた北村を、岩田は思わず不信そうな目で見返した。 「岩田、何で手袋してんの?」 「何でって…寒いからだよ。雪まで降ってんだぞ」 至極簡単なことを聞かれ、岩田は戸惑う。 「えー!!」 「なんだよ!?」 「いや、だって…」 左手をつかまれ、手袋を脱がされる。突然のことに固まる岩田をよそに、大きな手で岩田の手を包んだ北村は、 「恋人と手ぇつなぐときは、素手じゃないと」 と、にっこり笑って言い放った。 「ば、馬鹿!おまえ外だぞ、離せ!!」 「この道、街灯少ないし大丈夫。しっかし岩田の手、冷えてんなぁ」 「いや、離せって!」 「照れんなよ。あったかいだろ?」 強い力で握られた左手は振りほどくことが出来ず、抵抗は無駄に終わった。 「手、つなぐとあったけーな」 恥ずかしさのあまり岩田はうつむいた。顔を覗き込むようにする北村から目をそらしながら、指先が温まっていくのを感じ る。手袋よりもこいつがいて良かった、とふと思った自分の思考に更に顔を赤くしながら、岩田はごまかすように、北村が 痛がる程強く手を握り返した。 ---- [[夢精>12-259]] ----

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