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狐と狸の化かし合い ---- 電車の、目の前の席に座ったやつの頭の上に葉っぱが乗ってた。 二十歳前後でちょっとダサいけど珍しい色のファー付フードのコートを着て、 大きなスポーツバッグを足元に置いて、降りる駅を間違えないようにか 黒目がちな目をしっかり開けている。その頭の上に、小さな茶色い落ち葉が。 「なにか、ついてますよ」 自分の頭を指差して払う仕草をすると、びっくりしたように目を丸くして、 それから慌てて頭を振る。葉っぱはひらひらと落ちていき、電車の床に着く前に…… 消えた。 「……」 思わず相手の顔を見ると、小さな声で 「どうも」 と頭を下げ、それから少し恥ずかしそうに目線を外した。 (ふうん) 僕は、相手に気づかれないように読んでいた本で口元を隠して笑った。 (狸だ) 山の狸が、久しぶりに町に下りてきたらしい。もしかしたら、人間に化けるの初めてなのかも。 どこに売っているのか思わず聞きたくなるような渋い色のコートと妙なロゴマークのついた スポーツバッグをを観察しながら、僕は少しこの狸をからかってみたくなった。 「どこで降りるんですか?」 手帳の後ろの路線図とにらめっこしていた、薄い茶色の頭がこっちを見上げる。 「○○駅……」 「だったら、あと5駅ほどだ。着いたら教えてあげましょう」 人間にしては黒目の部分の多すぎる目が、にこっと笑った。 (ふふ、やっぱり狸ってタレ目なんだ) 僕は今度は隠さずに微笑した。狸も「ありがとう」と笑い返し、僕たちはそれから 5駅分お喋りをした。 どうやら彼は家族のクリスマスプレゼントを買いに街に来たらしい。 たまたま僕も同じ理由で買い物に来ていたので、話が盛り上がった。 「僕も毎年家族とかじゃなくて友達とクリスマスパーティとかしてみたいなあ」 という彼に、 「もし家が近くだったら誘うのにな」 と言ってみると、目を輝かせて「行ってみたいなあ」とか言ってる。 可愛いなあ。僕は、思わずそう思ってしまった。相手は狸なのに。 降りる駅について、彼は手を振って人ごみの中に消えていく。その変な色のコートを目で 追っていると、ホームでくるりと振り返った彼が、笑ってまた手を振った。 僕も笑って振り返すと、彼の手が頭の上にいき、大きくなにかを払う仕草をする。 「つ・い・て・る・よ」 彼の口が大きくそう動き、僕は驚きのあまり頭の上の葉っぱを消すのも忘れて 「コン!」 と小さく叫んだ。……今年のクリスマスパーティには変わった毛色の狸が来るに違いない。 ---- [[背中合わせ>12-189]] ----

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