「10-889-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

10-889-1」(2013/08/08 (木) 05:46:49) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

煙突のある風景 ---- 投下させてください。あと長くなってしまいました、すみません。 ______________________________ 僕の住んでいる町には巨大な煙突がある。 町のどこからでも見える、とても大きな煙突だ。 煙突の横には小さな家がちょこんと建っているのだが、空き家のようなので誰が 何のために建てたのかさっぱりわからない。 両親や祖父母にも聞いてみたが知らないと言う。なんとも不思議な話だ。 煙突と、まるで煙突のおまけのように小さな家(廃墟と言ったほうがいいかもしれない)は 子供たちの絶好の遊び場だった。 まわり一面原っぱで民家がなく、雨をしのげる家までついている。 これで秘密基地にならないはずがない。 僕とあいつも毎日ここで遊んだ。道で拾ったエロ本や捨て犬を持ち込んだりしたな。 そしてなんともありがちな話だが、煙突には足場がついていて、高く上ったヤツが偉いという子供内ルールがあった。 田舎だったので木登りが得意なやつが多く、途中まではみんなするすると登っていく。 でも木の高さより高くなると、怖くてだんだん足が進まなくなってくる。 僕は木登りすらもろくにできなかったので、煙突なんてとても登れなかった。 「こわい!こわいって!!もう無理!絶対これ以上登れんわ…」 「まだ10段登っただけやろー!根性出せや!」 というやりとりを数回繰り返して、やっとあいつも「こいつには無理だ」と悟ったらしい。 あいつは僕と違い、なんと記録を打ち立ててしまった。今でも子供たちの間では破られていないらしい。 さすがにてっぺんまでは登れなかったが、今までの記録を大きく更新してぶっちぎりの第一位だ。 自分のことのように嬉しくて、降りてきたあいつがこちらに向かって誇らしげに笑った瞬間、涙まで出てしまった。 落ちないか心配だったんだろうか。 自分のことを「僕」から「俺」と呼ぶようになったころ。 中学に入学したころには自然と煙突には近づかなくなった。 あいつとはよく遊んだが、秘密基地ではなくお互いの家でゲームをしたり漫画を読んだりした。 中学・高校とずっと同じ学校で、俺たちは相変わらずの仲だ。 煙突も取り壊されることもなく、ずっと原っぱに建っている。 そんな高校最後の夏休み、あいつから突然電話がかかってきた。 いつもはメールなのに、と思いつつ通話ボタンを押す。 「おう」 「おう。どうしたんや」 「お前暇やろ。今から煙突まで来い」 「は?お前受験勉強「いいからちょっと来い」 そう言い放って切りやがった。 かけなおしてみたら電源が入っていないか…のアナウンス。 いったいなんなんだあいつは。 もしかして前借りた漫画にジュースこぼしたのがばれたんだろうか。 それとも電子辞書の履歴をエロい言葉で埋め尽くしておいたのがばれたんだろうか。 心当たりがありすぎて困る。とにかく煙突まで行ってみることにした。 台風が近づいてきているんだろうか。風が強くて自転車がなかなか進まなかった。 汗だくになりながら俺が着くと、すでにあいつは着いていたようだ。自転車が停めてある。 でも姿がどこにも見えない。 「おーい、着いたぞー。なにやってんだー?」 声をかけながら家の中を探してみるがちっとも見つからない。 探しつくして外に出ると、煙突から声が降ってきた。 「おーい、どこ探してんだよ!」 あいつは上にいた。それもかなり高い。昔あいつが自分で作った記録より高いところにいて、 顔もはっきり見えない。 「何やってんだバカ!さっさと降りて来い!あぶねーだろーが!!」 声も自然と大声になる。こんな高さから落ちたら間違いなく即死だぞ。しかも今日は風も強いのに。 落ちてきて地面にぶつかるあいつを想像してぞっとした。 「いーやーだー!てっぺんまでもうちょっとなんだよ!」 「なにがもうちょっとだよ!!いいから早く降りて来い!」 「うるせーよバカ!だまって見とけ!」 そのあとは俺が何回降りて来いと言っても、止まらずにひたすら登り続けた。 1時間後、あいつは地面に落ちることもなく登りきり、そして無事に降りてきた。 降りてきたときの得意そうな笑顔は数年前とまったく変わらない。 絶対殴ってやろうと思ったのに気が抜けてへたりこんでしまった。こいつは飄々とした顔で 「あれ、今回は泣かんかったなー」 とか言っている。まあ、後で殴ると心に決めたところで重要なことを聞いておこう。 「…おい、なんであんなことした?」 「お前の泣き顔が見たいと思って」 「はあ!?」 俺が本気で殴りそうだと思ったのか、慌てて否定してきやがった。 「ごめんごめんごめん嘘!それは嘘!」 そのあと3秒ほど間を空けてこう呟いた。 「もうてっぺんまで登る機会なんてないなーと思って」 あるだろ、いくらでも。そう言おうと思ったけど言えなかった。こいつが今何を言おうとしているか、俺にはなんとなくわかってしまう。 俺の顔を見て、こいつも気付いたらしい。でも話を止めはしない。 「俺さ、東京の大学行くわ。やっと決めた」 やっとお前との腐れ縁も切れるわ!とか東京でも達者で暮らせよ!とか言ってやろうと思ったけど、 「そうか」 としか言えなかった。なんでだ。っていうか、なんで俺はこんなに泣きそうなんだ。 こいつは俺の顔を見て話し続けるが、俺はうつむく。こいつの目を見ていられない。 「ほら、こういうことして大目に見てもらえるのって高校生までじゃね?」 「おう」 「だから思い立ったら吉日ってことで登ってみた!」 「おう」 「いやー、4月になったらこの煙突ともお別れやなー」 「おう」 「お前とはお別れじゃないけどなー」 「お……は?」 「俺お前のこと好きだから」 「……な」 「遠恋というやつだ。もしくは俺といっしょに東京に来い」 「いや、ちょっと待て」 「お前が煙突登れなかったころからさ、俺がいっしょにいなきゃってずっと思ってて。  最近気付いたんだけどこれって恋だわ。俺お前に触りたいとか思うし」 「やめろ!恥ずかしいわ!それ以上しゃべんなアホが!!」 「そんでお前はどうなんだよ?」 にやつきやがって。明らかに答えを知っているって顔だ。 やられっぱなしでムカつくので、胸倉引っつかんで頭突きしたあと、口に噛み付いてやった。 煙突のあるこの町を、こいつは4月に離れていく。山と田んぼ、それと煙突しかないこの町。 俺もいつかはこの町を離れ、煙突のある風景を懐かしく思う時が来るのだろうか。 懐かしいと思うとき、隣にこいつがいて、懐かしささえも笑い飛ばせたらいい、と心から思う。 ---- [[B面タイプ×A面タイプ>10-899]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: