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背中がかゆいが手が届かない ---- 寝返りを打てないもどかしさに目を開けて、そのまま心臓が止まるかと思った。 目の前には見慣れた友人の顔。ただそれだけなら死に至るほど驚きはしないが、お互いの距離が5㎝ないというのはいくらなんでも異常だろ。ああ、でもこいつのまつげ長いなあってそうじゃなくて。 慌てて周りの状況を確認しようとしたが、何故か身体の自由が効かない。 そういえば、寝返りが打てなくて起きたんだった、と思うと同時に、ベッドの柵を通って自分の両手を戒める鎖に気がついた。 …………え?何で? いやいやいや、冷静になれよ俺!ってゆーか今更だけど、俺なんにも着てなくねえ?全裸じゃねえ? 恐る恐る隣の男の全身に目をやると……こいつも全裸か。 一つのベッドの上に、一糸纏わず密着した野郎が二人。しかも一人は鎖で拘束。 この状況はありえない。夢だろ、なっ、これって夢だろ!? あー良かった。何の深層心理の表れだか知らないが、夢なら良いんだ夢なら。 さあ、俺はまた違う夢の世界に行くぞ!水着のおねーちゃんがいっぱい…… 「尚人、さっきからぶつぶつうるさいぞ」 ……そうですよね、夢なわけないですよねっ そして起きてたならそうと言え。 「ちょっ、孝弘、これどーゆーことだよ!なんで俺がお前の隣で全裸で手錠なんだよ!?」 やつはうるさそうに眉をしかめた。 「そうでもしないと、お前逃げるだろ?服脱がせたのは、繋いだ後だとやりにくそうだったから」 「いや、そうじゃなくてさあ」 もっと根本的な理由が知りたいんだよ俺は! 「昨日、尚人が言ったんだぜ?『女なんかもう嫌だーお前がいればそれで良いー』って」 俺は昨日、彼女に振られてヤケ酒を飲みに孝弘の家に来た。そういえばそういうことを言ったような気もする。 「だから、『本気にしていいのか』って聞いたら『当たり前だろっ』ってお前は答えた。俺は『お前を抱きたい』とも言った」 全っ然覚えてない。孝弘に絡んだあたりで記憶が途切れているみたいだ。 「だからって何でっ」 「お前が『好きにしろ』って言ったから。でも酒に弱い尚人のことだから朝には全部忘れちゃうだろ?」 さすが親友。鋭いな。 「忘れても約束を果たしてもらえるように、今のお前の姿があるわけだ」 なるほど、筋は通っていないこともない。 「いや、でも、お前が俺に対して、だ、抱きたいとか思ってたなんて知らなかったんだけど」 「だって言わなかったから」 またサラリとぬかすなあこいつは。 けれど孝弘は、突然真面目な表情になって、言った。 「でも、昨日の尚人見てて我慢出来なくなった。…好きなんだよ、尚人。もうこれ以上、他の娘と付き合うお前を見たくない」 俺、そんなに真剣に見つめられると、何か動悸がしてくるんですけど。 ……動悸?ドキドキ?? 「だぁーっちょっとタイム!俺は確かにお前のこと好きだけどそれはそんなんじゃなくてっ」 「どうしても気持ち悪かったら止めるから。一生に一度のお願い、この通り」 いや、頭下げられても…… 「大体何で孝弘まで何も着てないんだよ」 「いざやろうってとこで尚人が寝たからだろ。結構お前も気持ちよさそうだったぜ?」 なんか、この孝弘怖い。オーラが違う気がする。 「今から必要なものとってくる。待ってろよ」 そう言って孝弘は階下へと降りて行った。 残された俺は、ベッドに固定されたまま。 なんか背中がかゆくなってきたけど、これじゃ手が届かない。あーでも掻けないとなると余計にかゆいな。 なんとかシーツに擦りつけようとするが、上手くいかない。 ガチャガチャと鎖を鳴らしながら必死でかゆみと戦っていると、怪しげなチューブとどう見てもコンドームにしか見えないアルミ片を持った孝弘が戻ってきた。 「尚人、お前まだ逃げる気でいるのか?」 それはもちろんそうだが、これは背中がかゆいだけであって……何でそんな怖い顔するんですか!? 孝弘はゆっくりベッドに近付くと、サイドテーブルに持っていたものを置いた。「……っ」 俺、今から肉食獣に喰われるんじゃないだろうか。 孝弘の瞳から目が離せない。 「覚悟しろよ、尚人。イヤって言うほど泣かせてやるから」 「お前っさっきと言ってることが逆じゃないか!止めてやるんじゃなかったのか!?」 「……もう黙れよ」 そう言うや否や、孝弘は俺に覆い被さって、唇をふさいだ。 「……んぅ……はぁっ」 気持ち良すぎて死ぬかと思った。 「な?平気だろ?」 見つめられると、やっぱり動悸がする。 俺、もう駄目かも。孝弘はいいやつだし、何か拒めないし、キスは巧いし。 肩で息をする俺をよそに、孝弘の頭が下半身へと移動して行く。 ついに俺は、全てを受け入れようと、瞳をつむった。 ---- [[皇子×王子>10-379]] ----

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