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あいみての のちのこころに くらぶれば ---- 友達がたくさんいてみんなに信頼されて、成績もそこそこ良くてサッカー部のレギュラーで。 一度も話したことはないけど、同じクラスのずっと憧れだった奴。 聞こえてくる会話から好きなバンドを知って、新刊の小説を我慢してその分のおこづかいでCDを買ってみたりした。 好きなサッカーチームの話をしてたから夜中にうとうとしながらテレビで試合を見てみたりもした。 会話を交わしたこともないのに馬鹿馬鹿しい、と思いながらも、どこか奴と近づけた気がして頬が緩んだ。 先日席替えで隣の席になった時は素直に嬉しかったが、なにか変なところを見られていないかと気が気ではない毎日だ。 少しでも話せたら、友達になれたら。 いつも通りそんなことをボーっと考えながら、3時間目の国語の教科書を開く。 「やっべ、ごめん!教科書見せて!」 ガタン、と奴の机が俺の机にぴったりと並ぶ。 距離が近い。無理無理無理。 目は合わせられないし、真冬なのになんか変な汗かいちゃってるし。 あー今絶対俺変な奴だと思われてる。 何と答えるのが正解なのかが分からなかったので、俺は黙って俺の机と奴の机の境界線より少しだけ奴のテリトリーに比重を置いて教科書を配置した。 奴の隣の席になってからは授業に集中できたためしがなかったが、今日は集中できないとかそういうレベルじゃない。 俺はこんなに困ってるのに奴は隣ですやすや寝てやがる。 あ、俺の隣で寝てるって言うとなんかアレだな、変な感じだな。いやそうじゃなくて。 あーあ、ほら当てられた。寝てるから。 慌てるから足ぶつけてるし。筆箱落としてるし。 「ここから、読めって」 目を逸らしつつ当たってる箇所を教える。あ、これ初会話だ。 「あいみてのーのちのこころにくらぶればーむかしはものをおもわざりけりー」 寝起きの声はいつもよりちょっと子供っぽいなーなんて思いながら奴の落とした筆箱を拾う。 「すまんのぉ何から何まで」 ふざけた口調で言う奴に全身の勇気を振り絞る。 「その、キーホルダー、のサッカーチーム、今年優勝しそうだよね」 やばい、語気が強くなってしまった。あと会話の流れも不自然かもしれない。 「見てるの!?今年は調子いいよな!先週末の試合は見た!?最後の最後できっれーなセットプレー!」 俺の反省はよそにすごい食いつきだ。 一生懸命勉強した奴の趣味の話題はもちろんだが、それ意外も盛り上がる盛り上がる。 今までうじうじ話しかけられなかったのは何だったのだろう。楽しい。すごく楽しい。 「ほらそこお喋りしない!そんなに余裕があるならお前ら、この句の意味を説明してみろ」 先程奴が読み上げた句の意味を聞かれ、そういえば授業中だったと思い出す。 授業中に先生に叱られたのは初めてだ。 「えーっとぉ、あいみて、は多分会って、見るだからー」 奴が困った顔でまごまごしている。 「ちゃんと会ってお話してみたら、それまで一方的に遠くから想っていた頃よりもなお会いたい思いは強くなる、みたいなそんな感じですか?」 一応文学部に所属する俺が答えると、大体正解だ、と少しばつの悪そうな先生。 「さすが!」と笑う奴と一緒に着席する。 そのとき奴が屈託のない笑顔で言った、 「俺の今お前に対する感覚、そんな感じ!」 こいつは本当に意味を分かって言っているのだろうか。 「なんてこともあったね」 「もう8年も前のことなのか。まあ実際は『お話してみたら』なんて可愛い意味じゃなかったけどな」 「俺も中学生だったんだから『逢い見て』なんてわかんないよ」 「はいはい、純粋な文学部員さんだったんですねー」 「そんな俺に『逢い見て』もっと好きになった、とか言った奴は誰だっけ?」 「そこまでは言ってねえよ...!それに俺もあの頃はお話してみたら、って意味だと思ってたし」 「じゃあ、本当の意味であの句を実感させてあげようか」 「な、馬鹿...」 「お前を知る程好きになってくのは俺のほうだよ。 あの頃から、ずっと」 ----   [[あいみての のちのこころに くらぶれば>25-699-1]] ----

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