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爪を切る ---- ヒリつく背中に眉を寄せて、気の抜けた声で騒ぐ頭をはたく。一通りの作業を終えた右手を解放し、緩慢にパタパタと動く左手を取っ捕まえて、爪切りをあてがう。 「いっ、ひっ」 「……………」 「きょっ」 「……いい加減面白い声出すのやめてくんないか」 「だってなんか人に爪切られんのって思ってたよりくすぐった……いひっ」 パチンパチンと小気味良い音を立てて爪が切れる度に、短く意味の分からない悲鳴をあげてはプルプルと震える。 「あーもうやすりはやめてー」 「丸くしなきゃ意味ねえだろ、爪痕から血ぃ滲むとか尋常じゃねえぞ」 「あっちょっ、あーあーもうやっぱりゾワゾワするし…!」 「自業自得だ、我慢しろ。……ほら終わったぞ。」 「あ゙ーー…」 唸りながら枕に顔を埋めるのアホを横目に、ついでに俺も切ってしまおうかと思い爪を見る。が、すぐにそんな必要は無いと知る。 深爪すぎる程の深爪だ。 「……なあ、っていうかお前、爪立ても噛み癖もなかったよな。なんで今回俺こんなになってんの。」 「気分気分」 「ふざけろよ。痛えだろーが」 「ごめんねー……でも、ぶっちゃけつけたくてつけました。」 「は?」 女々しくてごめんね、大好きだからさあ。とやけに据わった目つきで笑ったアイツは、つつっと俺の首筋を撫でて、再び枕に顔を埋めた。 ……はぁ? 翌日、顔を洗いに立った洗面所の鏡の前で、一人理解する。 ……アホだ、あいつは。 首筋の虫刺され跡を腹立ち紛れにひっかくが、刺激はあまり無い。 俺が深爪してるのは、他の誰かのためではない。 まずは寝こけるあいつを叩き起こして、さっさとこのベタな誤解を解いてしまおうと思う。 ----   [[酌み交わす>25-639]] ----

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