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昔、あるところに ---- 昔、あるところに世界を護った孤独な竜がいました その竜は優しい竜でしたがとても大きく強かったので 小さな人間達にはどうしても竜が恐ろしく見えてしまいました ある日その竜の巣に一人の旅人が転がり込みました 全身傷だらけで今にも息絶えてしまいそうな旅人は言いました 『自分は世界を脅かす恐ろしい事実を知ってしまった  これを皆に伝えるまでは死ぬ訳にはいかない  不躾な願いとは分かっているがこの巣でしばし休ませて欲しい』と 竜はその願いを聞き入れました、旅人の瞳が真実を物語っていたからです 旅人は介抱のお礼代りにいままでしてきた旅の話を沢山しました 年中雪がふる国の話、夜の明けない街の話、双子ばかりが住む島の話 魔法が発達した都市の話、そしてこの世界に迫る闇の話 幾分か元気になった旅人が巣を立つ前日の夜、竜は旅人に聞きました 『お前は私が恐ろしくないのか』と、旅人は返しました 『優しい貴方は怖くない、怖いのは帰る世界が無くなる事だけ』 巣を立つ朝旅人は言いました『まだまだ話してない旅が有る』と 『貴方と話をしに戻る』と、竜は理由も分からず嬉しくなりました 旅人が巣を立った少し後闇との戦争が始まりました、竜も闇と戦いました 沢山の闇を討ち世界が平和になっても旅人が戻る事はありませんでした 昔、あるところに世界を護った孤独な竜がいました ある旅人の帰る世界を護った優しい竜がいました たった一人の人間ともう一度話がしたかった竜がいました ―――――――― チビ達を寝かしつける為に聞かせる御伽噺 いつもは大体俺が聞かせるのだが今日は久々にカイが話した その御伽話は、あの時にやけに似ている話だった 最近やっと抑揚を付けて話せるようになったカイは子守も随分板についたようで 「え~、こんなの竜が可哀想だよ~!」 「旅人さん何処行っちゃったのー?」 なんて悲しいお話に不満を溜めたチビ達に群がられても頭を撫でて軽くあしらっている 最初にコイツを孤児院につれて来た頃の惨劇が今では嘘のようだ 初めて会わせた時はカイの顔にある傷と鋭い眼光を見てチビ達は泣き出したし カイの方もほとんど接した事のない小さくて弱い子供を見て無表情のまま戸惑っていた まだまだ騒ぐ気のチビ達を無理矢理寝かしつけながら俺はカイに声をかけた 「なあカイその話何処の国の御伽噺だよ?俺も始めて聞いたぜ?」 「いや…これは昨日見た夢だ、やけに細部まではっきりした夢だったから話してみた」 その言葉を聞いた瞬間心臓が止まるかと思った、平静を装って何とか言葉を搾り出す 「へえ~、即興で話せる様になるなんてお前も子守が上手くなったなあ」 「子供たちには不評だったようだがな」 「俺には結構好評だぜ?」 「そうか…」 珍しくカイが少し笑った 「だがやはりお前が話す冒険譚を聞く時の方が嬉しそうだ、明日はお前が話してやれ」 「んー…、いや、やっぱ明日もお前が話してやってくれよ」 「何故だ?」 「今度は"もう一度竜と話がしたかった旅人の話"になっちゃいそうだからさ」 ----   [[薄くなったカレンダー>25-429]] ----

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