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弟に依存する兄と、依存されていることに気が付かない弟 ---- いつも通りの夕飯を終えて2階へ上がっていく弟の背中に、僕はいつも通りに声をかけた。 「春也、宿題たくさん出たんだって?兄ちゃんが手伝ってやろうか」 じりじりとした気持ちの揺らぎが声へ現れないよう、頭痛がしそうなほど細心の注意を払った。 弟の答えもいつもと同じ。 「なんでだよ。自分でやるからいいよ」 「そうか、わからないところがあったら言えよ」 僕の答えもいつもと同じ。 「ありがと。おやすみ」 「ああ、おやすみ」 カチャリと軽い金属音を残して閉まった部屋の扉を、僕はいつまでも眺めていた。 こんなことを考えている間にそれほどの時間が経ったのだろうか。はっきりとした感覚がない。 自分の立ち位置すら不明瞭に感じる。 それは2年前から徐々に、僕を蝕んでいた。 15歳の誕生日を目前に控えた春也が、深夜に僕の部屋のドアをそっと開けた。 僕は不機嫌を取り繕うこともなく、「ノックぐらいしろよ」と視線をあげた。 「…に、兄ちゃん、」 消えそうな声でそう言った春也の手には、日ごろ見慣れた、白く濁った液体が見えた。 それからというもの、馬鹿だが要領のいい春也に、僕はいろいろなことを教えた。 母子家庭でなければ、父親が教えるはずだっただろうことを。 高校へ入ってからはそんなことも減った。 僕と違う高校へ進んだ春也は、時々の反発と痛みとを繰り返して成長した。 彼女ができ、友人が増え、母を敬い、家族を愛し始めた。 こんな僕のことも。 けれど僕の中にある捻じ曲がった一種の庇護欲は、かえって飢えていくばかりだった。 教えたい。春也に何かを。 教えたい。あの目に、耳に、彼のすべてに。春也が僕に。 集中してくれたら。すべてを研ぎ澄まして、僕だけを見てくれたら。 教えたい。春也に。 君が好きなんだと。 「春也ぁ…」 うずくまり泣き出すと、本格的に視界が揺らいだ。 母が洗っているはずの、食器の音が聞こえない。 ぼたぼたと零れている筈なのに、涙は分厚く目の前を覆ったまま。 呼吸が苦しくなるのをただじっと感じていると、勢いよく腕を引かれた。つられてよろけながら立ち上がる。 「兄ちゃん!」 「あ…」 春也、と言ったつもりが、うまく言葉にならない。 「どうしたんだよ?なに?どっか具合でも悪いの?」 「いや、だ……大丈、夫」 今度は声に出た。 「疲れてんの?進学校は大変だねー。ほらしっかり立って!」 ぶら下がるようにだらんとしていた僕の体を、春也が部屋まで引っ張って行く。 「兄ちゃんの部屋は参考書しかねえからな、今日は俺の部屋で寝な」 「いや別に…参考書は好きだよ…」 ぼんやりしたままで答える。涙はいつの間にか引っ込んでいた。春也の顔がよく見える。見慣れた顔だ。 「これじゃどっちが弟だかわかんないな」 手を引かれながら僕が言うと、「双子だもん、関係ねえじゃん」と春也が言った。 「……そうかもな」 「あ、そうだ。兄ちゃんパワプロやんねー?気晴らし気晴らし!」 「自分の宿題はどうしたんだよ」 「それは兄ちゃんがやってくれるんだろ?俺代わりにパワプロ教えっからさ」 「やってやるなんて言ってない、手伝うって言ったんだ」 春也に引きずられて部屋へ入る。 もう二度と、泣きたくないと思いながら。 ----   [[犬好き×猫好き>25-159]] ----

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