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俺のこと好きなんだろ? ---- 私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。 2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。 何度注意しても直さないボサボサの金髪。 ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。 そして何より座り方がおかしい。 椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。 数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。 今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。 おい、落ちるぞ。 気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。 「先生、板書間違ってます」 「え?…」 黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。 「あ、あぁ…すまん」 慌てて『原点からの距離』と書き直す。 恥ずかしさで耳が熱い。 私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。 突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。 やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。 生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。 私も思わず苦笑がもれる。 照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。 「先生、笑った」 え? 「やっぱさー、先生、」 何だ。 「俺のこと好きなんだろ?」 何を言い出すんだこいつは。 一斉に笑い声が起きる。 「何言ってんだよ」 「原田が先生のこと好きなんだろ」 「お前数学の授業しか出ねーじゃん」 囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。 原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。 こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。 私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。 ----   [[獰猛な羊×気弱な狼>25-069]] ----

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