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お前が大人になるのをずっと待っていた ---- 小さい頃毎年夏になると、俺はじーちゃんの家によく泊まりに行っていた。 じーちゃんちはまあとにかく田舎にあって、俺の住んでいる場所から電車をいくつか乗り継いで、しかも鈍行しか止まらないような駅で降りる。 駅は当然のように無人駅で、着く時間を連絡しておくと、じーちゃんがにこにこして迎えに来てくれた。 ばーちゃんはスイカを用意してくれてて、じーちゃんととりあえずそれを食べて。 家の裏には川に下りられる階段があって、俺は必ずその川へ遊びに行っていた。 その川で、毎年一緒に遊ぶ友達がいた。 小柄な俺よりさらに少し背の低くてふわふわした髪をしたそいつは、田舎のガキらしく真っ黒に焼けて、麦わら帽子をいつもかぶっていた。 都会育ちの俺と、根っからの野生児のあいつは、滝からダイブしたり、洞窟を冒険したり、俺がじーちゃんちにいる間は毎日のように川で遊んで、イタズラしちゃ怒られたりしてたんだ。 でも俺も中学から高校、大学に行くにつれてどんどん忙しくなって、いつしかじーちゃんちに行くこともなくなった。 いつも一緒に遊んだあいつのことも、名前すら忘れていった。 そんなある日、ばーちゃんの訃報が届いた。 わかんないもんだ、あんなに元気だったのに。そう思って、俺がばーちゃんに会ったのはずいぶん前だったことに気づいた。 久しぶりにじーちゃんちに行くと、じーちゃんは変わらない笑顔で出迎えてくれた。 けど、なんだか背中が小さく見えた。 ばーちゃんを見送ったあと、俺はじーちゃんに聞いてみた。 「なあじーちゃん。俺が小さい頃、よく一緒に遊んでたやついたろ?あいつ、もうこの辺に住んでないの?」 「あー…そういやいたなぁ。いや、じーちゃんわからんよ。若いもんはこんな田舎、さっさと出ていってしまうしなぁ」 そっか、と答えて、俺はじーちゃんのコップに日本酒を注いだ。 その夜。 あまりに久しぶりすぎて、じーちゃんちが落ち着かない俺は、タバコ片手に家の裏へ出た。 川へ下る階段は変わらずにそこにあって、降りようかとも思ったけれど、暗いのと狭いのでやめておいた。代わりに、一段に腰かけてタバコに火をつける。 ぼんやりとそこに座っていると、下のほうから誰かくるのが見えた。 まさか、こんな時間に川から人がくるわけがない。そう思いつつも、体は金縛りにあったように動かない。 柔らかに光っているように見える人影は、俺の目の前でぴたりと止まった。 『久しぶり』 にこりと微笑んで、それは言う。 パニック寸前の俺の脳みそを刺激するように、人影は二度三度うねり、見たことのある少年の姿になった。 「お、お前…!」 『思い出してくれた?』 「なんなんだよ、お前!」 若干の恐怖を押さえつけながら問うと、少年はまた姿を変える。 すらりとした、長髪の青年になった彼は、悲しそうな顔をして川の先を指差した。 『君が、大人になって戻ってきてくれるのをずっと待ってた』 「え?なんだよ、何があるんだ?」 『僕の家。もう、潰されちゃったけどね』 そう言って、彼は肩をすくめる。 同時に、昔と変わらない、ふわふわした髪の中に存在を主張する、二つの狐耳が立ち上がった。さらに同じような毛質の尻尾まで見える。 「き、狐…?」 『稲荷神社があったんだ…あそこに。そこが僕の家だった』 「お稲荷さん、てやつか?」 『そう。人に忘れられた僕は、もう稲荷ではない。ただの、狐…誰にも見えない、何もできない狐』 俺の喉が、無意識に上下する。 『でも、僕は忘れられなかった…君が幼い頃、一緒に遊んだことを』 「…俺もだ」 『だから、僕は君を、待ってた。大人になった君が、迎えにきてくれるのを』 「迎え、に?」 『僕は、僕を覚えていてくれる人の側でしか生きられないんだ。 一緒に、行ければいいと、思ってた。でも、実際会えれば、それで満足できるものだね…』 そう言った、彼の笑顔はひどく寂しそうで。 俺は思わず、必死になっていた。 「なあ、お前俺のとこ来いよ!狭いアパートだけどさ、一人ぐらいどうにかなるって!」 『…でも』 「待っててくれたんだろ!?俺のこと、ずっと!」 改めて思えば、何をそんなに必死になったのかわからない。 だけど、その時俺は、ただこいつと一緒にいたい、それだけだったんだ。 俺をきょとんとした顔で見つめていた彼は、やがて嬉しそうにはにかんで、頷いた。 それ以来、俺のアパートには、一匹の大きな狐が住んでいる。 ----   [[花火大会>21-969]] ----

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