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嵐の大麻くん ---- 天地万物に意思は宿るという。 遥か南の海の彼方、いつ生まれたとも分からぬ彼も、先代からの記憶を確かに受け継いでいた。 片目に思い描くは北を統べる一族。彼の勢力を弱め、やがては滅びへと追い込む因縁の存在である。 暖かな海の懐に抱かれ成長した彼も、やがて極寒の地へと向かい、ひとり、旅立つのであった。 それはもう、本能とでも言うべきものなのかもしれなかった。 吹き荒れながら彼は考える。経験なき記憶の中に浮かぶ奴の姿を。それに抗う己の姿を。 奴に力を吸われ、今の姿を保てなくなった同志の姿を。 彼はなおも考える。何故に我は奴へと進むのか。 何か強く導かれる心がある。それは果たして何なのか。 本能のままに突き進むのみであった彼に、初めて思考というものが生まれた瞬間であった。 しかし幼き彼は、まだその心を理解する言葉を持たなかった。 811 :2/2:2009/03/24(火) 22:49:23 ID:tXtJyYirO 暖かな海は彼に力を与えた。大陸からの風が、彼を大きく逞しくさせた。 その風が運ぶものは力だけではない。彼を恐れ、憎み、時には崇める者共の思念も飛んできた。 喜び、怒り、悲しみ、快楽。それらの雑多な情念を吸収しながら、彼は進む。 彼は思う。 どうしてなのか。我が力を増すにつれ、奴への心はよく分からなくなる。 憎しみ。それは同志を消されるが故に。 悲しみ。それは我らが相容れないが故に。 高揚。それは因縁の相手とぶつかるが故に。 切なさ。それは…何故に? 奴を思う度に渦巻く複雑な感情は、常に彼を惑わせ、混乱させた。 その度に風は吹き荒れ、雨は激しく地表に打ち付け、まるで彼の心を表すかのようであった。 数日後、彼もまた冷気団に出会い、彼としての力を失うことになる。 その時までに彼が己の本心を悟ることができたのかは、残念ながら知る術がない。 しかし、奴と出会って穏やかになりゆく彼の姿を見るに、 何か変化があったのではないかと思わずにはいられない。 余談だが、彼の進路上の麻畑が大きな被害を受け、至る所に麻が降るという現象が起き、 彼は「ハリケーン・マリファナ(嵐の大麻)」と呼ばれるようになった。 もちろん、彼は知る由もない。 ----   [[海の底>15-819]] ----

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