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デリケートな攻め×デリカシーのない受け
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野上はデリカシーのない男だった。そんなところも魅力に思えていたが。
「いいよ、つきあっても」
クシャッと目を細めて笑い、俺を驚喜させたあと、
「彼女できるまで、な。男同士とか『遊び』よ? あくまで」
こともなげに言い放ったような奴だった。
人より小柄なくせに態度がでかくて、言いたいことを我慢したことなんかない、その竹を割ったような性格が可愛いとか思っていた。
念願叶って、暗くした部屋でようやく抱きしめれば、
「え? 何? 抜きたいの? 溜まってるの?」
──抱きたいんだ、愛し合いたい、と告げれば
「マジで!? 俺を?」
ぎゃはは、とばかりに爆笑して
「ま、いいけどさ」
とゴロリと寝っ転がる。
「やっぱ俺が掘られるほう? 林田より俺のほうが小さいもんな」
と大きく伸びをして、でも、と首をかしげ、
「俺の方が大きくね? 比べてみる? ほらほら」
パンツから取り出したものをブラブラさせた。
とうとう俺は立ち直れなくなり、念願の初夜はお流れとなった。
『結果』も俺をうちのめしたが、そもそも俺はデリケートなのだ。
「ドンマイドンマイ、よくあることだって! 気にするな、初めてだしな!」
さっさと尻を向けていびきをかいたような男の、どこが可愛かったというのだろう。
今となってはわからない。それでも3年はつきあった。
俺は本当に野上を愛していたし、何のかんのと言いつつ奴もまんざらではなかったはずだ。
「愛してるって!? 男同士で気持ち悪い、何言ってんの、ウケルし!」
口ではそっけなかったが、笑いかけてくる目が冗談だよ、と、俺も同じ気持ちだよ、と、語っていたはずだった。
なのに、卒業式の夜、すべて壊れた。
「だって、一生ホモなんてできないでしょ。お互いすっぱり忘れて、いい女見つけて結婚して子供作って幸せになろ」
俺は、就職してもつきあっていきたいと言ったのだ。
幸いふたりとも地元に残れることになっていた。支障は大きくなかったと思う。
無駄な3年を過ごしたと思った。俺の学生時代をこんな男に捧げてしまった。
再び人を愛するまで1年もかかった。
奴の言うとおり、俺は普通の結婚をした。
幸せになった。
「おお、林田じゃない! 久しぶりだなぁ。お前、ちょっと太ったよ、すっかりオッサンになっちゃって!」
片手を上げる小柄な姿は、目尻の笑いジワが深くなった以外変わっていないように見えた。
「……野上」
会う気なんかなかったのだ。ずっと避けてきた。たまたま居酒屋で隣り合わせた席に野上がいるなんて。
「職場の? 飲み会?」
「うん、送別会」
「こんな時期に?」
「うち、7月と10月なんだよね」
衝立越しに十数年ぶりの会話を探していると、野上のテーブルから勢いよく声がかかった。
「野上先輩のお友達ですか!」
あいまいにうなずくと、そのノリの良さそうな野上の後輩は衝立から首を伸ばし、俺の左手に目をとめて
「あ、先輩のお友達はちゃんと指輪してるじゃないですか。ほらね、野上先輩もそろそろ本気で相手探さないと」
野上の左手をつかんでひらひらさせた。
「独身?」
「まだ、ね」
クシャッと笑った。ああ、あの笑顔だ。
野上は、学生時代かなりもてたのだ。
背こそ低かったが、愛嬌ある二枚目半に憎めないさばけたところが女の子に人気だった。
むろん、俺もそんな野上だから惚れたのだった。実は結構な競争率を勝ち抜いて得た恋人だった。
その野上がいまだに独身? 信じられない気がする。
「なんだ、じゃ、卒業してもつきあってられたんじゃないか」
こっそり耳打ちすると、野上は鼻で笑った。
「何言ってんの、さっさと結婚したくせに」
クックック、と野上は堪えられないように、笑いに背を丸めた。肩をふるわせながら、
「お前みたいなデリケートな奴はな……ま、いいや。幸せそうで安心したよ」
笑いジワに溜まった涙をぬぐった。
ぬぐいきれない涙が、ツッと笑顔に流れた。
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[[デリケートな攻め×デリカシーのない受け>21-749-2]]
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