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三味線奏者
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俺は父母の顔を知らない。
生まれついて盲目だからだ。
まあ、仮にこの目が見えていたとしても知りたいなんてかけらも思わなかっただろう。
役にも立たないお前なんか産まなきゃよかったと挨拶代わりに吐き捨てる母に、厄介者扱いして狭い座敷牢に閉じ込めた父。
貧しい寒村では仕方のないことだ。
俺もわかっていたから愚痴なんて言わなかったし長く生きるつもりもなかった。
身分を弁えて、黴臭い四畳半の座敷牢でひたすら死だけを待ち望んで生きていた。
…あの人に会うまでは。
「師匠…」
冷たくなったその人の頬を、鼻を、瞼を撫でる。
親兄弟にすら思わなかったのに、初めて知りたいと思ったその人の顔を。
「あの時、俺がどんな気持ちで聞いていたか、あなたは知らないでしょう。」
ただ息をしているだけの絶望的な暗闇の中に、突如流れてきた美しい音色。
あの時の感動は生涯忘れられない。
『一緒に、くるかい?』
流しの三味線奏者の何気ない一言によって俺は初めて幸せを知った。
『目が見えなくたって、人を楽しませることは、できるんだよ』
厳しい練習を重ね、指を血まみれにしながら覚えた三味線。
あなたは、盲目の俺が自分の死後も生きていけるようにと仕込んでくれたのでしょう。
でも俺は、違う。
あなたの音色に。いや、あなた自身に。
少しでも近づきたくて。
「音だけでも、俺のものにしたかったんだ」
一人前になって初めてあなたのために奏でる三味線が、弔いの唄だなんて哀しすぎるけれど。
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[[三味線奏者>21-359-1]]
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