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シナモンの効いたアップルパイ
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一回行っただけじゃ覚えれない様な辺鄙な場所にある小さな喫茶店。
アンティーク調の落ち着いた店内には珈琲を点てる音だけが響いている。
場所は忘れてしまうけど忘れられない味と評判のケーキは店主の手作りだ。
30代後半くらいの渋目のおっさんがケーキ作りしてる姿は少々笑えるが何せケーキが絶品なのと
とある理由で俺は足繁く通っていた。
この店を見つけたのは1年前の冬だ。
受験のため大学に向かってる最中、有ろう事か迷ってしまった俺は
大学に辿り着くことが出来ず戦う前に破れ意気消沈しながらフラフラと彷徨っていた。
寒さと虚しさの中歩いているとふとシナモンの香りがした。
香ばしく甘い香りに誘われる様に出向いた先がこの喫茶店だった。
寒さで真っ赤になった鼻を啜りながら中に入るとそこにあったのは優しく柔らかな笑顔と甘いアップルパイ。
「特別な日にしか焼かないんだ」
おっさんは寂しそうに笑うとシナモンがたっぷりのアップルパイとダージリンを俺に出した。
「今日は嫁の三回忌でね」
悲しげだが綺麗に笑う姿は凄く眩しく見えた。
俺は一回り以上も離れたおっさんに一瞬にして恋に落ちてしまった。
それから1年かけて店に通い愛を伝えた。
毎日毎日。
気の迷いですぐに冷めると言われた。
そんな事より勉強しろとも。
勿論勉強もした。
そして1年経ってもおっさんへの愛は深まるばかりだった。
俺は一大決心をして受験の前日喫茶店とむかった。
「受験に受かったら俺と付き合って欲しい」
そう伝えるとおっさんは顔を真っ赤にしながら困った様に笑った。
それから喫茶店には行っていない。
今日は合格発表日。
通い慣れた道を歩く足取りは軽い。
が、やはり不安だ。
おっさんはどう反応する?
気が付くと俺は1年前と同じ場所にいた。
そして鼻を掠める香ばしく甘い香りに気が付き俺は愛しいあの人が待つ店へと足早に向かった。
今日が俺とおっさんのアップルパイ記念日になるだろうと予想して。
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[[堕ちたヒーロー>24-709]]
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