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戻らない ---- 高校時代の友人たちと、良い歳こいて祭りに来ている。 そしたら上野が、これまた良い歳こいて迷子になりやがったので、友人たちから花火までに見つけてこいとの指令を拝命した。 迷子て。子って歳じゃねぇぞ。 上野はマイペースな奴だ。いつもフラフラどっか行くあいつを、探してくるのもいつも俺で。 久々に地元に帰ってきたと思ったらすぐこれだ、と少し笑う。 案の定、上野は祭りをしている神社の真裏の、倒壊しかけた古い石段の途中に座っていた。昔からここが好きだな。 「上野、皆が待ってるぞ。ここからじゃ花火見えないだろ。戻ろうぜ」と、俺が後ろから話しかけると「やっぱりおれを探しにくるのはお前だな、金澤。おれは戻らないよ。いいじゃないか花火なんて。座れよ」 そう言って、隣に座るように促す。 「まあな。花火で喜ぶほど若くない」そういいながら隣に座る。 「お前はすぐ自分をおっさんだのもう若くないだの言うな。高校時代からそう変わってないくせに」上野は俺の方を見ずに言う。 そして、「それとも、高校時代のようなおれたちに、戻りたくないからか?」とも。 上野は俺を見ない。俺の顔を、俺の目を、見ない。 高校時代、俺たちは友人以上の、異常な関係を。俺は、逃げるように東京に就職を決めた。上野には言わずに。それ以来の再会だ。言われるのはわかっていた。 「…俺は、戻らないよ。もう行こう。あいつら待ってるぞ」 俺は立ち上がる。 「おれはあいつらの所に戻らないよ。…いくらお前が戻りたくなくても、それでもおれはお前の事を」 肝心の言葉は、花火の音で聞こえなかった。 ----   [[戻らない>24-629-1]]----
戻らない ---- 高校時代の友人たちと、良い歳こいて祭りに来ている。 そしたら上野が、これまた良い歳こいて迷子になりやがったので、友人たちから花火までに見つけてこいとの指令を拝命した。 迷子て。子って歳じゃねぇぞ。 上野はマイペースな奴だ。いつもフラフラどっか行くあいつを、探してくるのもいつも俺で。 久々に地元に帰ってきたと思ったらすぐこれだ、と少し笑う。 案の定、上野は祭りをしている神社の真裏の、倒壊しかけた古い石段の途中に座っていた。昔からここが好きだな。 「上野、皆が待ってるぞ。ここからじゃ花火見えないだろ。戻ろうぜ」と、俺が後ろから話しかけると「やっぱりおれを探しにくるのはお前だな、金澤。おれは戻らないよ。いいじゃないか花火なんて。座れよ」 そう言って、隣に座るように促す。 「まあな。花火で喜ぶほど若くない」そういいながら隣に座る。 「お前はすぐ自分をおっさんだのもう若くないだの言うな。高校時代からそう変わってないくせに」上野は俺の方を見ずに言う。 そして、「それとも、高校時代のようなおれたちに、戻りたくないからか?」とも。 上野は俺を見ない。俺の顔を、俺の目を、見ない。 高校時代、俺たちは友人以上の、異常な関係を。俺は、逃げるように東京に就職を決めた。上野には言わずに。それ以来の再会だ。言われるのはわかっていた。 「…俺は、戻らないよ。もう行こう。あいつら待ってるぞ」 俺は立ち上がる。 「おれはあいつらの所に戻らないよ。…いくらお前が戻りたくなくても、それでもおれはお前の事を」 肝心の言葉は、花火の音で聞こえなかった。 ----   [[戻らない>24-629-1]] ----

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