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引退試合
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事実上、引退試合というやつなのだ。
「卓球なんて、なにも夏に試合組まなくてもな」
「それも郡大会は冷房無しとかマジ狂気っす」
自転車を押しながら帰る夕暮れの道は、これが最後かもしれない。
勝ち上がれば県大会にも行けるが、うちの学校の実力的には奇跡が起こらなくちゃ無理。
ましてや啓祐先輩なら、なおさらだ。
「明日、せめて曇るといいのに」
俺が言うと、先輩は嫌な顔をした。
「ずーっと一週間晴れが続くって言ってたぞ。明日は三十六度の予報だって」
「そーっすか」
自転車のハンドルが無駄に重い。
だいたい、俺は自転車通学なのに先輩は歩き組で、そもそも一緒に帰るのが不自然なのだ。
不自然だが、俺が一年の時からなんとなくこうやって、今ではひとりで自転車で帰る方がおかしい。
(……それも先輩が引退するまでか)
つまり、やっぱり今日で最後なのだ。
こんな田舎のコンビニもないような道、ひとりなら自転車でぶっ飛ばすだけのただの道だ。
「負けたくないなー」
先輩が言うので、腹がたった。
「勝てばいいじゃないですか」
「勉強したくないなー」
心の底からしたくなさそうだった。
「だから勝ちたいのかよ! どっちにしろ受験生でしょ」
三年なんだから、卓球は終わり。さすがの俺も言えなかった。
ジリジリと片頬だけを夕日に焼きながら、黙って歩く。
先輩が言った。
「なんか俺、もう、死ぬみたいな気がする」
「はぁ!?」
「今日ってさ、明日の試合しかないんだよ、その先とか考えられないんだ。
それって、明日一度死ぬのと同じな気がする」
「死ぬ気でやりゃひょっとしたら勝ちますよ」
「最後の試合って感じよりももっと切実っていうか……お前も来年になったらわかるよ、たぶん。
いや、お前は県大会まで行くかな? ……まあ、それでも終わりは必ず来るわけだし」
ため息をひとつつくと、祐輔先輩は立ち止まった。
「じゃあさ、約束してやる。明日は絶対に一勝はする」
「絶対とか言って一勝っすか」
「実力相応ね……まあ、一勝だけはとにかくする。そしたら明後日お前に告白する」
「へ!?」
「お前の卓球が好きで、気づいたら好きだった。でも続きは明後日。今日は忘れろよ」
顔を見れば、日焼けよりも夕日よりも赤黒く、暑いだけでもなさそうな汗をボタボタ落として──泣きそうな顔でにらみつけられてた。
「これで俺、明後日までは生きられそう」
言うだけ言って部のかばんを揺らしながら全力疾走し始めた。
わけがわからない。っていうか何で俺?
……馬鹿だな、先輩、俺自転車なんだけど……これって追いついてもいいんだろうか。
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[[鬱な夏休み>24-609]]
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