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ぱっと見A×Bと見せ掛けて実はB×Aなのかと思ったらやっぱりA×B ---- 「なあ、俺、お前のことすきだよ」 二人で宅飲みをした夜、話のついでにひょいと言ってみたときの、奴のポカン顔ときたら最高だった。 「……………、………は、?」 次の発言までたっぷり40秒。パズーなら鳩逃がして家を出るレベル。 あーそのジワッジワ赤くなる顔とかすばらしいね、連写モードで撮影したい。 そんでコマ撮り動画にしてやりたい。 俺が表情を真顔から一ミリも崩さず、だまってじっと見つめていたら、 奴の顔はとうとう鎖骨のあたりから額まで真っ赤になってしまった。 「なん、なに、……いきなり、……」 ようやく何やら突っ込もうとしているようだけど、焦りすぎて言葉がわやわやだ。 かわいー奴め。 ほんとうに、こいつは言葉で感情を表現するのが不得手だ。 口に出す前にやたら考え込むし、 考えすぎて結局何が言いたいかよくわかんなくなるのもしょっちゅうだ。 おまけに表情を作るってスキルがすこんと抜け落ちてるもんだから、 初めて会う人にはいちいちいちいち誤解される。 だから、その白い顔が透かせる血色が、伏せられがちな目線が、 じつはなによりこいつの心を反映することに気がついたのは、多分俺くらいなもんだと思う。 「ふはは。顔真っ赤」 笑って、指先でつっと奴の頬に触る。あっつい。発火しそうだ。 ますます困ったように奴の視線が揺らぐ。 「おま、……お前、また、からかって……」 「うん? あれ、バレた?」 好きだよ、と同じくらいの温度でさらりと言ってみたら、指先の下ですっと表情が冷えた。 揺らいでいた視線が一点を見つめて固まる。 ああほんとこいつはわかりやすい。 ちゃんと見れば分かる。何も言わない分、目線に、肌に、こいつの心は透けている。 冷えた頬を、そのまま手のひらで包む。指先に、こいつの薄い耳たぶが柔らかく当たる。 「嘘だよ。ほんとだよ」 「……、……ぁ、……、………?」 混乱しきった目で奴が俺を見上げる。ちょっとぞくぞくする。 もっといじめたい気持ちをぐっとこらえて、相手の顔に額を押し当てた。 「からかったのが嘘。すきなのがほんと。  お前が俺のことすきなのくらい、わかるよ、わっかりやすいもんお前」 ゆっくりささやくと、間近の目が見開かれるのが気配だけで分かった。 奴の手のひらがおれの手に重なる。ちょっと震えているもんだから笑ってしまう。 ああ、ほんとにかわいい奴。 そんな風に余裕ぶっこいて考えてたから、キスされたのは不意打ちだった。 「っ! ばか、待っ」 しかもいきなりどぎついやつだ。待て、と言おうとした口に舌が潜り込んで中を探る。 閉じる間もなかった目が至近距離でかち合う。ばかやろうお前は閉じろ。 目が合うとだめだ。 感情を透かしやすいこいつの目が、必死さをこれでもかってくらい伝えてくるもんだから 引き剥がそうとした腕がほだされる。 不器用に、俺の歯並びを全部覚えようとでもするみたいに、口の中をあいつの舌が這い回る。 呼吸が苦しくなって唇を逃がす。追いかけられてまた塞がれる。 「……、……」 せわしい口付けの合間の奴の吐息が、俺の名前を呼んでいるのに気がついて、腰からざわっと何かが這い登った。 言葉で感情を表現するのが苦手なこいつは、愚直に幾度も俺の名前だけを呼ぶ。 俺の反応をこんなときばかり目ざとく感じ取った奴は手のひらをおれの腹から背中へと這わせてくる。 肌が直接触れ合って震える。ぞくぞくする。 ああ。もう。 「っ!」 一瞬の隙を突いて口付け返すと、奴は身体全体を強張らせて息を呑んだ。 その期に乗じてぐいと相手に体重をかける。 不意を突かれたあいつは、目を丸くして俺を見上げながら倒れこんだ。 「ふ、……きょとんとしちゃって」 ささやく声は少し上ずっている。あーやばいな、これは俺がやばい。 奴の腿に跨って、顎の先に口付ける。奴が驚いたように身じろいだ。 「……なん、」 あいつの声も震えている。軽く齧ったらびくっと跳ねた。 「……なんでって? 俺だってお前すきだもん。キスさせろよ。  お前ばっかりしまくってずるい。そうだろ?」 俺が問いかけると、奴は何か言おうとして、考えるように視線をさまよわせた。 口に出す前に、言葉を選んで、咀嚼して、再検討して。 させませんけど。 言葉がまだくすぶってるあいつの口を、俺はふさぎなおす。 「……っ、……」 考える余裕なんて与えてはやらない。このままなしくずしだ。 お前の攻略法なんてとっくの昔にシミュレート済みです。 そのわっかりづらい感情表現、ここまで読み解けるのは俺だけだ。 ここまで来んのに、どんだけお前のこと見てきたと思ってんの。なめんなよ。 ----   [[墓まで持ってくつもりでしたが>24-349]] ----

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