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インテリ×インテリ ----  高畑は試薬の調合中なので逃げられない。いかにもうんざりといった顔で肩をすくめてみせた。 「君は変わり者だな」  お前に言われたくない、と俺は思う。 「どうしてそういう結論に至ったのか、過程を聞こうか」  その固い言い方に吹き出しそうになる。おそらくこいつは他の言語を知らない。  実験の毎日、読むのは論文ばかり、真理の探究に捧げる人生。  こいつにわかる言葉で、俺は相手をしてやる。 「検証するつもりか? 瑕疵を見つけたい?」 「錯誤があるだろう、まず前提条件がおかしい」 「前提条件はポテンシャルの範囲内です」 「……この場合、対象における適合事例ではない」 「そこは実験してみないとわからなかった、そうだろ?」  高畑の苦い顔に、俺は思わず笑い出す。 「結果はなかなか良い成績だったと思ったけど」 「それは客観的な考察じゃない!」  高畑は真っ赤になって、机をばんばん叩く。  いつの間にかピペットは転がり、スターラーばかりがカラカラと鳴る。 「実を言えば最初に結論ありき、だったと言ったら?」 「仮説に誘導された考察は往々にして誤りだ」 「そうかな」  赤くなった耳を撫でると、産毛がさっと逆立つ。 「仮説に応じたメソッドを組み立ててこその試験だろ……不適当だった?」  首筋に手をまわしてうなじをつかむと、背筋がびくんと伸びて固まる。 「追試験もいっぱいしたでしょ」  顔を近づけるとぎゅっと目をつぶって。  ほら、何度も繰り返した手順にいつも同じ敏感な反応をみせる彼は、再現性の高い優秀なマテリアルだ。 「……君はあれを試験と呼ぶのか、実験なのか」 「不満なのかな、試験じゃなきゃ、実証でもいいよ」 「いやな奴だ」  唇をはむと息を止めるのも。  舌を差し出すと歯を閉じるのも。 「もうお互い、同じ結論に辿り着いたと思うけど」  時間の経過とともに軟化する知見を既に得てるから。 「異論……ありだ」  苦しそうな眉間の皺が甘い泣き顔に変わるまで、俺としては何度も反復せざるを得ないのだ。 「つまり要旨は、同性間における性的行動による相互作用がおよぼす恋愛感情、とでも」 「メチャクチャだ、馬鹿な──」 ----   [[掃除係>24-229]] ----

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