「24-219-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「24-219-1」(2012/06/24 (日) 01:22:47) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
インテリ×インテリ
----
高畑は試薬の調合中なので逃げられない。いかにもうんざりといった顔で肩をすくめてみせた。
「君は変わり者だな」
お前に言われたくない、と俺は思う。
「どうしてそういう結論に至ったのか、過程を聞こうか」
その固い言い方に吹き出しそうになる。おそらくこいつは他の言語を知らない。
実験の毎日、読むのは論文ばかり、真理の探究に捧げる人生。
こいつにわかる言葉で、俺は相手をしてやる。
「検証するつもりか? 瑕疵を見つけたい?」
「錯誤があるだろう、まず前提条件がおかしい」
「前提条件はポテンシャルの範囲内です」
「……この場合、対象における適合事例ではない」
「そこは実験してみないとわからなかった、そうだろ?」
高畑の苦い顔に、俺は思わず笑い出す。
「結果はなかなか良い成績だったと思ったけど」
「それは客観的な考察じゃない!」
高畑は真っ赤になって、机をばんばん叩く。
いつの間にかピペットは転がり、スターラーばかりがカラカラと鳴る。
「実を言えば最初に結論ありき、だったと言ったら?」
「仮説に誘導された考察は往々にして誤りだ」
「そうかな」
赤くなった耳を撫でると、産毛がさっと逆立つ。
「仮説に応じたメソッドを組み立ててこその試験だろ……不適当だった?」
首筋に手をまわしてうなじをつかむと、背筋がびくんと伸びて固まる。
「追試験もいっぱいしたでしょ」
顔を近づけるとぎゅっと目をつぶって。
ほら、何度も繰り返した手順にいつも同じ敏感な反応をみせる彼は、再現性の高い優秀なマテリアルだ。
「……君はあれを試験と呼ぶのか、実験なのか」
「不満なのかな、試験じゃなきゃ、実証でもいいよ」
「いやな奴だ」
唇をはむと息を止めるのも。
舌を差し出すと歯を閉じるのも。
「もうお互い、同じ結論に辿り着いたと思うけど」
時間の経過とともに軟化する知見を既に得てるから。
「異論……ありだ」
苦しそうな眉間の皺が甘い泣き顔に変わるまで、俺としては何度も反復せざるを得ないのだ。
「つまり要旨は、同性間における性的行動による相互作用がおよぼす恋愛感情、とでも」
「メチャクチャだ、馬鹿な──」
----
[[掃除係>24-229]]
----