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さよならのうた ---- 5/1 晴れ 最近君が「また会おう」と言わずに「さようなら」と言うようになったのを不安に感じる。 それに対して何を言うわけでもなく部屋を出る俺は、無力なのだと痛感する。 だが、きっとお医者様が治してくださるはずだと信じている。 くだらない事を考えるよりかは散歩でもして、彼に聞かせる話でも探そう。 5/2 曇り 朝にお見舞いに行き、昼には仕事をする。 仕事と偉そうに書いてはいるが、所詮文豪に憧れたしがない物書き。君のことが頭を離れず一文も書けない。 甲斐甲斐しくお世話をしてくれた書生に八つ当たりしてしまった。 出来もしない仕事などしても意味がないと、晩には俺が君に何を出来るかを考えた。何も思い浮かばなかった。 5/3 晴れ 朝一番に書生に頭を下げた。すると、頭を下げる必要などはないと焦った様に頭を上げることを促される。 しかし謝ったのは、八つ当たりしたまま彼に顔を見せられなかったからだ。そのことに自己嫌悪する。 彼には顔を見せて、しょうもない世間話をした。本当にこれでいいのだろうか? 漠然とした、薄気味の悪さに思わず閉口する。 5/4 雨 今日は彼に顔を見せていない。昨日の夜から、仕事をしていた時、お医者様に彼がもう長くないことを知らされた。 瞬時土下座をして、一日でも長く延命してくださいと叫んだ。 お医者様が去るまで何を言われても床につけていたので顔は見ていない。 年甲斐もなく泣きそうになった、たぶんきっと情けないようなものを見る目で見ていただろう。 5/5 晴れ 彼が私の家の庭を見たいと言った。安静にしていなくてはと思ったものの、昨日のお医者様の言葉が脳裏をよぎる。 気がつけば私は首を縦に振っており、彼を家にまで運ぶこと決意した。 お医者様にそのことを伝えると、半ば期待していた止める言葉をかけてくださらなかった。 彼の部屋に戻り、書簡をしたためている彼に「明日行こう」と伝えた。彼は筆を止めなかった。 5/6 晴れ 彼は庭の花をじっくり見ていた。 「9月に植えた石楠花と灯台躑躅がまだ開花していた。君が世話をしてくれたんだろう。安心した」 そう言った彼に私は微笑んだ。なんという贅沢な言葉だろう。 仕事に身が入らないということが、たまにはいい仕事をするもんだ。 5/7 快晴 彼が死んだ。手には手紙が握られていた。 見る勇気がない。お医者様も無理に見る必要はないと、手紙を読むこともなく私に手渡した。 死ぬ前に彼が何を思ったのか知るのが怖い。 震える手で、庭で茶を啜る。 5/8 朝:小雨 このままじゃいけないと決心して手紙を開いた。 「私は明日、庭を見る。篤志家な君がどのような庭を見ているかが想像できない。 もしも庭に花が咲いていたら、私が亡くなったあとも続けてほしい。 もしも何も生えないない庭ならば、居なくなった私だと思って何かを植えてほしい」 5/8 昼:霧雨 手紙を途中で読むのを止めた。 小説を受け取りに来た者が私の気も知れずに渡せ渡せと五月蝿いからだ。 完成していない旨を伝えると書け書けと五月蝿い。 書生が心配そうな目を向けるのを無視して小説を書き始める。 5/8 深夜:星空 小説を書き終えた。手紙の続きを読んだ。死ぬ前に書き足したであろう一文があった。 「清の庭を見た。もう怖くない」 庭に出て空を見た。 月と星空が共存する中に彼の姿を見た気がした。 ----   [[生意気意地っ張りだけど世話焼きな年下攻め(受けにもタメ語)>22-749-1]] ----

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