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日韓友好 ---- 「邪道だ」 俺は激怒した。 必ず、爽やかなはずの朝の食卓に鎮座する、邪悪な赤色の物体を除かなければならぬと決意した。 わりと本気で言っている。冗談を言っているわけではない。 「その赤い悪魔をすぐさま下げろ!不愉快だ!!」 「またそれ?もういいじゃんか。おいしいから食べてみろって。納豆キムチ」 赤い悪魔を食卓に置いた張本人、いわば悪魔を裏から操る大魔王は、実に嫌そうな顔をして言い放つ。 食卓に並ぶのは、まだ米がよそられていない空の茶碗と、白いパックに入ったままの納豆。と、その隣の小鉢にいれられたキムチなる赤い物体。 朝からこの悪魔と大魔王の嫌な顔をいっぺんに見なきゃならないなんて、まったく腹がたつ。 「ふざけるな!納豆はな、ストレートに食うのが一番うまいんだよ。ありのままでうまい納豆になにか別のものを混ぜるなんて邪道でしかない。生卵だ大根おろしだ、そんなチャラけたものにうつつを抜かしてないで、素材の味をそのまま楽しむのが日本男児ってもんだろうが!」 「僕に日本男児の心得を説かれてもね」 「キムチなんて辛いだけの白菜なんぞ、もっての外だ。キムチの刺激が強すぎて納豆の味を殺すだろう。ああもう、名前を出すのもおぞましい。そいつは悪魔だ。血のように真っ赤で、地獄のように辛い、悪魔野郎だ!!」 「今の君の顔の方がよっぽど悪魔らしいよ」 恨めしそうに睨みつけてくる大魔王と赤い悪魔を、視界にいれないように、ぷいと顔を背けた。 「とにかく。納豆キムチなんて、俺は認めないからな」 重くなり始めた空気に、またやってしまった、と、ほんの少しだけ後悔する。 この馬鹿みたいな問答も、今朝で何度目になるだろう。 納豆キムチに限ったことじゃない。俺たちは、いつも些細なことで言いあっては、お互いに譲らない。 こんなことでこの先やっていけるのか。 なあ、おまえは、何度言えばわかってくれるのだ。 何度、一緒の朝を迎えれば、俺たちは、わかりあえるというのだろう。 「わかった。そこまで言うなら、これでどうだ」 大魔王は、思いついたように立ち上がると、俺の茶碗を持って台所に入っていった。 すぐに戻ってきた大魔王の手には、炊きたてであろう、湯気の薫り立つ白米が山盛りに盛られた茶碗と、卵があった。 「おい、なにをするんだ。……おい、やめろ、やめ、おい!!」 大魔王は、こなれた手つきでパックの納豆をかきまぜると、それをあろうことか悪魔の小鉢にまるごと全部ダイブさせやがった。 人の制止も聞かず、そこからさらに納豆と悪魔をいっしょくたにかきまぜている。 「で、これを、あっつあつのご飯にかけて、さらに生卵を投入!軽く黄身をつぶしてー、最後にちょろっと、だし醤油をかけたら納豆キムチ卵かけご飯の完成ー!」 さあどうぞ召し上がれ、というか食え!と、いわんばかりに、大魔王が完成品を俺の前にずずいと差し出してきた。 それを無視しようと思ったのに。 「せっかく君のために作ったのに、食べてくれないのか」 急にふざけた顔をしやがって。どこぞのスターのごとく、子犬のように愛らしい瞳で見つめてきやがる大魔王。 ああくそ、俺はこいつのこの顔には弱いんだ。 観念して、箸と茶碗を両手につかむ。 こうなったらがっつり食ってやる。日本男児の生きざまを、とくと見るがいい! 「どう?どう?おいしい?」 「まずく、は、ない」 「意地っ張りだな、君は」 まずくはない。嘘は言っていない。だってまずくないんだ。全然辛くもないし、納豆の味も殺されていないし、むしろ互いの味を引き立てあっているかのようで、それをまた卵がうまいこと調和してくれている。 なんだよ。――うまいじゃないか。 「で、認めてくれる?納豆キムチも有りだなってさ」 ちっ、と聞こえるように舌打ちをして、隣に座る大魔王の手をとった。いわゆる、握手ってやつだ。 「うわ、何。どうしたんだよ、急に」 「友好条約、だ」 「は?」 「認めてやる。納豆キムチも食べられなくはない。卵ありきでの話だがな!」 俺もおまえも譲れないところはたくさんある。しかし今日のところは認めてやろう。 もう一言ぐらい皮肉を言ってやろうとしたが、握手したままの手を強くひっぱられ、大魔王の胸に思いきりダイブしたことによって、それは叶わなかった。 頭にふってきた大魔王の笑い声は、なんだかとても嬉しそうで、つられて俺まで笑ってしまったからだ。 「あなたのことが、とぅきだからー」 「ふは、古いなー」 そうか、きっと。卵が俺らを、調和してくれるのだ。 ----   [[日韓友好>22-579-1]] ----

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