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あなたと見る朝日 ---- 暗い中、どこからかすずめの鳴き声が聞こえた。 「もう朝か…」 時間はわからない。腕時計は昨夜殴られたときに顔を庇って壊れたし、携帯の電源は切っていた。 誰とも、違う、ただ中根と繋がりたくなかった。 昨夜のことが思い出される。 「ああなんで俺…あんなこと」 キスをした。 酔っていたからではなく好きだったから。 二軒目三軒目と酔いを重ねる毎に中根と高橋の距離は近くなった。 普段あれだけしかめっ面をしている男が、綺麗な歯を見せて笑い、あれだけ近寄りがたい男が、自ずから肩を組んできた。 惚れ惚れするような眉間の皺は消え、代わりに細い睫が笑うたび揺れた。 「だってさぁ、あれはだって…」 中根のせいにしようと頑張ってみても、上手く結論付けられない。 高橋は無機質さを増した携帯電話を握りしめた。 「会社行きたくねえ…」 同居の妹と顔を合わせるのも嫌で、夜中の内にメールを入れて一晩を公園のベンチで過ごした。 財布も鞄も、飲み屋へ置いてきたまま。 「最悪だ…」 「こっちのセリフだよ」 「あっ!?えっ…」 起き上がり振り向くと、中根が不機嫌そうに立っていた。眉間の皺は一層深い。 「中根さんあの、俺」 「寝惚けてんだろ。飲めば」 差し出された缶コーヒーを手に取ると、中根が横に腰掛けてきた。 「中根さん」 「許してねえぞ」 「っで、すよね…」 肩をすぼめ、一晩で冷え切った体にコーヒーをちびちびと流しこむ。 何を話していいのか、中根のほうを向いてもいいのか、何もわからずただじっと黙り込む。 「高橋お前」 「…はい」 「謝ろうと思ってるのか知んねえけど、謝ったら右頬も張るぞ」 見透かされたようで、どきり、と言うよりはぎくりとした。既に殴られた左頬にじわじわと痛みが押し寄せてくる。 「……はい。…あの、俺はじゃあ、どうすれば」 「あぁ?知るかよそんなの自分で決めろよ。俺のこと落とすんじゃねえの?」 「え、いやそんな…え?」 思わず中根の横顔を見つめる。 「諦めてくれんならそれも楽でいいんだけど」 「えっ、いやいや落とします、絶対!」 「張り切んな、きめえ」 「なにがなんでも!」 「うぜえ」 高橋が中根を見つめたままでいると、中根はいつまでも空になった缶を口元へ寄せていた。 ビルからの反射光が二人を差す。 「あっ、馬鹿ほらもう朝じゃねーか!」 「わ、マジだ。すいません」 「しょうがねえな、ネカフェでシャワーだけ浴びてくぞ」 中根が放るように鞄を寄越す。 「あ、はい。あの、中根さん」 「なによ」 「ありがとうございます、探してくれて」 「酔っぱらってんの?」 二人は朝日に追われるように、小さなベンチをあとにした。 ----   [[新婚さんごっこ>24-99]] ----

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