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ピロートーク
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「さて、桃太郎が歩いていると、向こうから一匹の犬がやって来ました。
『桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな』――」
「おい善紀、なんでこの犬桃太郎の名前を知ってるんだ。初対面なんだろう?」
「なんでって……まあ、有名人だから?」
「なるほど。桃から人が生まれるのはその世界でも異常事態なんだな」
「多分――で、犬の頼みを聞いた桃太郎は、『鬼退治についてきてくれるならあげましょう』と――」
「団子一個で戦場へ行けというのか。随分乱暴な話だ」
「うん、正直それは俺も思った。……ああ、きっと半年予約待ちレベルの激レアきびだんごなんだよ」
晃にせがまれ、この前から寝る前に昔話を聴かせている。
が、この「おはなしの時間」は心地よい眠気と倦怠感に満ちていて、
二人とも、ともすればいつの間にか寝入ってしまう。
おまけに、晃は話が少し動くたびにいちいち疑問やツッコミを挟んできて、
俺もその度にいちいち理由を考えて答えている。
そんな状態なので、物語の終わりは一向に見えてこない。
「楽しいな」
雉はきびだんごを食べられるか否か、について考え込んでいると、不意に晃が呟いた。
え、と首だけでそちらを見やる。暗くて表情はよく分からないが、確かに上機嫌だ。
「何十回も読んだ話でも、こうやって誰かと一緒の布団に入って」
言いながらふわっと抱きついてくる。一心に甘えてくる小さな子供のようだ。
「俺ひとりに聴かせるために話してくれて、俺がなにか言ったらちゃんと答えてくれて……
こういうの、昔はなかった。だから今、長年の夢がかなってすごく嬉しい」
幼少期に家族関係で寂しい思いをしていたらしいことは、親しくなるうちになんとなくわかっていた。
でも、こういう話を直接聞くのは初めてだった。
「そっか。夢が叶ったか」
淡々と語られた言葉に胸がいっぱいになって、晃を抱きしめ返す。すると、
「今、ここにいるのが善紀でよかった」
囁きと共に、耳朶に柔らかいものが触れた。その一点が熱を帯び、全身に波紋のように広がっていく。
それを気取られたくなくて、
「まあ、楽しいのはいいけど、こう立ち止まってばかりじゃいつ話し終わるか分かんないよ?」
突っぱね気味に大仰なため息を付いてみせる。それを聞いた晃は、再び俺の耳もとで、
「いつまででも話し続ければいい。夜はあと何千回でもやってくるんだから」
当たり前のように言ってのけた。
俺はまず呆れ、次にその言葉の意味するところに思い当たり、さっきとは違う感情で胸がいっぱいになって、
何か言おうとして言えなくて、ただ晃の身体にまわした腕に一層力を込めた。
こうして二人は今夜も幸福な眠りについたのでした。
めでたし、めでたし。
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[[農民受け>22-549]]
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