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紳士攻め×流され受け
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「で、どう?」
急に話が核心に飛んで、きた、と内心胃が縮んだ。
今日は久々の同乗だったから、危ないとは思っていた。
一日店で疲れ、ようやく帰宅となったらまた難題をつきつけられる。
ハンドルに集中しながらでは、とても対応できそうにない。
うちみたいな地方の大型スーパーは、不規則な業務のせいで社員の離婚率が高い。
店長も俺もそのくちで、今はふたりとも社借り上げの同じアパートに入ってる。
自家用車に同乗して通勤するのは、店の駐車場が少ないという事情のため。
社員がまず率先してパートやアルバイトに示しをつけてるわけだから、簡単にやめられない。
……たとえ、同乗相手が俺のことが好きだなんて言い出したとしてもだ。
「しばらく考えてみてよ、柔軟な思考の訓練だと思って、ね」
店長はいつぞやの社員研修を引き合いに出して笑った。
「えーっと……なんか、私、試されてるんでしょうか?」
俺も半笑いでごまかそうとしたら、とてもまじめな顔で首を振られてしまった。
それからひと月がたつ。
ほっておいた企画話なら、怒鳴りつけられるか、とっくにおじゃんになってるかという期間だ。
「現在、検討しているところ……です」
「それはよかった。ぜひ、前向きにお願いします」
穏やかな声には、一片のトゲも感じられない。
その声にほっとした俺は、いったい何に安堵しているんだろう?
叱られなかったから? それとも、まだ嫌われなかったから、だろうか。
店長は、仕事のできる尊敬する上司で、人柄もいい。
男もいける性癖の持ち主である、ということは欠点ではないと思うくらいに、店長自身を気に入っている自覚がある。
こんな話じゃなければ、同じ社の一員として、末永くおつきあいしたい人間だと思う。
できれば、この人をがっかりさせたくはない。
だからって、これまで平凡に生きてきたのに、いきなりホモと言われてもハードルが高すぎるのだ。
──どうしても返事は延び延びになる。
「そこのコンビニ、入りたいな」
店長が言って、俺は車を曲げた。
郊外の広い駐車場をもつコンビニは、この時間も客足があって数台の車が止まっている。
「止めやすいところでいいよ、店の前じゃなくても、あっちで」
店長が指したとおり、敷地のはじに駐車する。
「じゃあ、私もなにか買います」
と、シートベルトを外した時だった。
シフトレバーを越えて店長が覆い被さってきて、首を曲げられキスされた。
頬に触れるだけ。だけど、確かに唇が、俺の顔にあたって音を立てた。
「……笹岡くんはいいにおいがする」
女ならイチコロな声で、ささやかれた。
「か、加齢臭しますよ、俺」
必死の抵抗は、噛んでうわずって効果無しだ。
「なんだか美味しいにおいだよ」
「それは総菜の、うちの売り場のにおいです、むしろ店長の方が香水とかの……」
言いかけたところを腕をつかんで引き寄せられて、今度は店長の胸に頭を預ける形になった。
シャツ越しの体温が、額に伝わる。肩にまわされる手。
敗北感。終わった、というあきらめに似たこの気持ち。
暗い車内でこの人とふたり、こうして。
とうとう、なってしまった。いつか、こうなると思った。
頭の上で店長の低い声がする。
「いつまでも保留なままなのは、良い返事なんだと私は思ったよ。たぶん、もう、こうした方がいいんじゃないかな、君にとっても」
強引。いや違う、俺の責任をかぶってくれたのだ。
これで俺には言い訳ができ、落としどころを得た思考は停止して、身だけを任せられる。
俺は、自分が流されたがってたことにようやく気づいた。
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