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権力者の初恋 ---- 仕事も一段落した昼時。 快晴を喜ぶかのように小鳥達が歌いながら窓に映る空を横切るのを見送ってから、穏やかな気分でコーヒーをすする。 「大統領、私の話、聞いてましたか?」 「…ああ、すまないね。もう一度言ってくれるかい?」 私の言葉に秘書はため息をついた。 先程から口うるさくスケジュールを述べ続けていた彼女の顔が、仕事モードから急に“子供を見守る親”のようになった。 「…ええ何回でも言いますとも、しかし今日のあなたは私の話を聞いてくれるとは思えない」 ごもっともな答えだ。 私はしばらく考えて、彼女を見上げる。 「…信じられるかい?今夜の事を思うと心が浮き立っていて食事もままならないんだ。この私がだよ」 お昼に出された大好物のラム肉でさえもなかなか喉を通らなかったのだ。 俗にいう、胸がいっぱいというところだろうか。真意はわからない。 何せ初めて体験する気持ちだから。 「…しかし大統領、今夜は緊急の会議が…」 私は彼女の言葉を遮るように人差し指をたて、横に振りながら「ノー」と言った。 「多忙である彼のスケジュールをやっと押さえたんだ。そうだろう?」 「ええ」 「キャンセルだなんてとんでもない。会議は別の日だ」 「わかりました」 そう、彼は今やおしもおされぬ大スター。 毎日何かしらテレビに出ていると言っても過言ではない世界的スターの夕食時を、我がハウスに招く事ができる日が来たのだ。 大統領の特権とも言えよう。 少しの間だけでも彼の時間を手にした悦びは計り知れない。 そして夜。 スーツに身を固め、手土産に花束なんて持ちながら彼はやって来た。 世界の名だたる役人が集まる会議なんかよりも緊張している私に、彼は笑顔でこう言った。 「大統領、お目にかかれて光栄です。心から尊敬しております」 彼は笑うと可愛いらしいえくぼが出来る。 小さな事だがテレビを通して何度も目にしてきたそのえくぼが、肉眼で確認できる。 夢ではない。 「ヘイミスター、なにを言うんだね君、こちらこそだよ全く」 私の言葉に彼は照れたように笑い、私の瞳をじっと見た。 「この花は、大統領の誕生月の花です。花が好きと伺ったもので…。今夜はお招きありがとうございます」 ああ、実物はなんてクールでナイスなタフガイなんだ。何もかもがまるで予想通りだ。 私は天にも昇る気持ちで、花束を受け取った。 ----   [[この想いを詩歌に乗せて>22-259]] ----

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