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ハリボテ完璧王子様と人畜無害なふりをした蛇 ---- むかしむかしのお話です。 ある国に、王子様がおりました。 王子様はたいへん賢く、心優しい美しい方でした。 ある日、家来を連れて歩いていた王子様は、花の咲き誇る湖の畔で立ち止まりました。 「なんと綺麗な風景だろう!家来たちよ!私を一人にしておくれ!この美しさを心ゆくまで味わいたいのだ!」 利発そうな瞳をキラキラと輝かせて王子様は叫びました。 「かしこまりました、王子様。」 家来たちは思わず微笑んで、王子を残して去りました。 「……疎ましい…。」 どかっ、と王子は湖畔に腰をおろしました。 お尻の下では花がいくつも折れ、ぺちゃんこになってしまいました。 「…どいつもこいつも馬鹿ばかり。もうウンザリだ。」 それは低い低い、ヒキガエルの鳴き声のような声でした。 どんよりと淀んだ沼の面のような目は、なにも映していませんでした 「分かりきったお追従。お世辞。おべんちゃら。何もかも下らない!」 王子がそう吐き捨てた時です。 かさり! 背後の藪がなりました。王子ははっとして振り向きました。 そこにいたのは、小さな小さな蛇でした。 「聞かれたからには生かしておけぬ。」 「お許し下さい!誰にも言いませぬ!!」 蛇は身をすくめ、必死で命乞いしました。 「いいやお前は喋るだろう。皆から慕われる私の正体が、ギラギラと飾りたてた只の空箱だと、いつか言いたくて堪らなくなるに違いない。」 「信じて下さい王子様!私は決して!!」 今にも蛇を踏み潰しそうだった王子の表情が、ふと緩みました。 「…決して言わぬか。そう誓うか。」 「誓います!我が命にかけても!」 「…ならばこうしよう。お前を今日から、私の側に置いて監視する。万が一お前が喋ったその時は…。」 遠くの方からがやがやと、賑やかな声が聞こえてきました。 家来たちが帰って来たのです。 「…"国の宝"とも呼ばれる私の中身が、実は空虚なハリボテであることを、こんなにちっぽけなお前だけが知る、か…ふふ、なかなか面白いな。」 王子はズボンの泥を振るって立ち上がりました。 「わあ!王子様!何を手にお持ちなのです!」 「蛇君だよ。先ほど友達になったのだ。」 「王子様ともあろうものが、そのような醜いものを…」 「命に貴賤はない。そのように言ってはいけないよ。それに蛇君はこんなに美しいじゃないか。」 王子様の手に握られた蛇は、確かにとても綺麗でした。 水に濡れたターコイズの様な深い青色の鱗が、光にあたるとぴかぴか光って色を変えるのです。 明るい笑い声に包まれながら、小さな蛇は王子の手のひらで、そっと震えておりました。 その日から、王子は蛇を片時も離しませんでした。 最初は気味悪がっていた侍女達も、蛇のたいへん小さく弱々しい様子を見て、次第に慣れてゆきました。王子様は自分の食べ物を手ずから蛇に与え、蛇もまた大人しく王子様の側に控えておりました。 そうして見た目は睦まじいまま、日々は過ぎてゆきました。 ある夜のことです。 少し膨らみ始めた王子の喉仏を、蛇は眺めておりました。 蛇は大きく口を開けておりました。 むき出しになった牙を伝って、透明な液体が、今にも王子の喉に零れ落ちそうになっておりました。 「…なぜ噛まぬ。」 「!!」 「なぜためらうのだ。お前の毒なら私ごとき、一噛みであろう。」 「…っ!!」 「そもそもお前はその為に…我が元に潜り込んだのであろうに。」 「…知っておられたのですか?」 「何をだ。  お前が猛毒を持つ毒蛇であることをか?お前があの時、一か八か覚悟を決めて、わざと私に見付かったことをか?お前が私に殺意を抱いていたことをか?」 「い…いつから御存知で…?」 「初めから、だ。」 蛇は月の光を受けて、ぴかぴか光っておりました。 「…私の母を…覚えておいでですか…?」 「覚えている。私が殺した。本当に美しい蛇だった。  どうしても我がコレクションに加えたかったのだ。…だが殺すと、鱗は色を失ってしまった。」 王子は手を伸ばし、蛇の鱗をなでました。 「下らない理由で、馬鹿なことをした。」 蛇は身動ぎせず、王子を見据えておりました。 「…復讐に燃えたお前の瞳は、実に美しかった。決意を秘めたあの輝き!どのような宝石でも、あの美しさには敵わないだろう!」 王子はうっとりと、夢見るように言いました。 「あれこそ本物だ!真実の持つ輝きだ!」 …嘘で固めてきた私のまわりには、もはや嘘しか残っていないのだ…」 「…何を考えておいでなのです…?」 「空っぽの虚構の城に住む私を、真実の目をもつ小さな小さなお前が殺す。  ふふ…昔話のようではないか。  きっと美しい寓話になると思ったのだ。」 王子は大きく腕をひろげました。 しかし蛇は動きません。 「どうした!毎晩機会を伺っていたのだろう?なぜ私を殺さない!?」 「…貴方は私に殺されたいと仰る…私に殺されるのが望みだと…」 「そうだ。さあ、早くしろ。」 「…ならば貴方には生きて頂きます。」 「なんだと!?」 「貴方の望むことをして何の復讐になりましょう。貴方には一人で孤独に生きて生きて生きて、天寿を全うして頂きます。そして私は…」 蛇は言います。 一言喋るたびに、燃えるような真っ赤な舌が、ちろちろと見え隠れしていました。 「私はずっと傍らで、四六時中離れず、貴方を見張っておりましょう。」 蛇の真っ黒な瞳が、夜のなかできらきらと輝いておりました。 ある国に、王様がいました。 とても立派な名君で、たいそう民に慕われていました。 またたいへんな美男子だったのですが、不思議なことに、生涯お妃様はお作りになりませんでした。 そして王様のお側には、四六時中、片時も離れず、美しい大蛇が控えていたそうです。 王様が長い長い天寿を全うされ、天に召される時までも、ずっとずっと。 むかしむかしのお話です。 ----   [[園児にふりまわされる保父さん>15-329]] ----

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