「15-259-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「15-259-1」(2009/03/29 (日) 15:45:21) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
パティシエの恋
----
厨房の向こうでふたりのやりあっている声がする。
「僕がオーナーだ。私の方針に従ってもらう」
「出来ません」
「バレンタインのデザートにはにチョコレートを使え。それだけのことだろ」
「私はパティシエです。ショコラティエではありません」
「だからなんだ。パティシエはチョコレート菓子を作らないとでも?」
「ショコラはデリケートなんです。私はショコラティエの技術を尊敬している。
納得のいかないデザートをお客様には出したくない」
「君の職人精神は素晴らしいと思うが、私はレストランの『経営』をしてるんだ。
自分の作りたいものだけを作って、レストランが運営できるか」
「では、この期間だけショコラティエを雇ってください」
「この時期に暇なショコラティエが役にたつか!」
堂々巡りの話の決着はまだつきそうにない。結果はわかっているので、
俺はメインの肉料理でカカオでも使おうかと考える。
「オーナーとやりあうパティシエなんてはじめてみました。すごいっすねえ」
「手を動かせ、新人。そのうち慣れるよ。オーナーが負けるし」
「なんでですか? お前なんかクビだって一言いえば終わりでしょ」
「言えるわけないだろ。あいつほどの腕があれば雇うところなんか
いくらでもあるし、独立してもいいし」
「なるほど」
「まあ、他の理由もあるけど」
「他の理由?」
「あー、まー、いろいろ」
「あ、オーナーが負けた」
「今まで勝ったことないけどな。このソースどうだ?」
「お、チョコレート風味っすか? いいっすね」
うちのパティシエは本当に意地が悪い。サドかもしれない。
そんなやつに惚れたオーナーも本当に気の毒だと思う。
蛇の生殺し状態はもう何年続いているだろうか。
気持ちに気がついているなら返事をしてやればいいのに。
バレンタインはキューピッドでもしてやろうか。
そんなことを言ったら、「余計なことをしたら殺す」と脅された。
今年は少しはオーナーが報われるのかもしれない。少し安心して店を閉めた。
----
[[パティシエの恋>15-259-2]]
----