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パティシエの恋 ----  厨房の向こうでふたりのやりあっている声がする。 「僕がオーナーだ。私の方針に従ってもらう」 「出来ません」 「バレンタインのデザートにはにチョコレートを使え。それだけのことだろ」 「私はパティシエです。ショコラティエではありません」 「だからなんだ。パティシエはチョコレート菓子を作らないとでも?」 「ショコラはデリケートなんです。私はショコラティエの技術を尊敬している。 納得のいかないデザートをお客様には出したくない」 「君の職人精神は素晴らしいと思うが、私はレストランの『経営』をしてるんだ。 自分の作りたいものだけを作って、レストランが運営できるか」 「では、この期間だけショコラティエを雇ってください」 「この時期に暇なショコラティエが役にたつか!」  堂々巡りの話の決着はまだつきそうにない。結果はわかっているので、 俺はメインの肉料理でカカオでも使おうかと考える。 「オーナーとやりあうパティシエなんてはじめてみました。すごいっすねえ」 「手を動かせ、新人。そのうち慣れるよ。オーナーが負けるし」 「なんでですか? お前なんかクビだって一言いえば終わりでしょ」 「言えるわけないだろ。あいつほどの腕があれば雇うところなんか いくらでもあるし、独立してもいいし」 「なるほど」 「まあ、他の理由もあるけど」 「他の理由?」 「あー、まー、いろいろ」 「あ、オーナーが負けた」 「今まで勝ったことないけどな。このソースどうだ?」 「お、チョコレート風味っすか? いいっすね」  うちのパティシエは本当に意地が悪い。サドかもしれない。 そんなやつに惚れたオーナーも本当に気の毒だと思う。  蛇の生殺し状態はもう何年続いているだろうか。 気持ちに気がついているなら返事をしてやればいいのに。  バレンタインはキューピッドでもしてやろうか。  そんなことを言ったら、「余計なことをしたら殺す」と脅された。  今年は少しはオーナーが報われるのかもしれない。少し安心して店を閉めた。 ----   [[パティシエの恋>15-259-2]] ----

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