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お前に愛されたい ---- 2歳で僕がこの町へ引っ越してきてからずっと、雨の日も風の日も顔を付き合わせてきた幼馴染の山縣。 彼にはこの度めでたく彼女が出来た。 色素が薄くてふわふわと清潔そうで虫も殺さぬような森ガール然とした2組の穂波、彼女が告白したらしい。断る理由も無いだろう、僕だって断らないと思う。 僕はといえば昨日の夜に山縣からのメールでそれを知らされて、初めて胸をえぐられるという感覚を知った。 一晩じっくりコトコトこれでもかと考えたけど穂波じゃない、僕は山縣が好きらしかった。 ここまで重苦しい朝も珍しい。ほとんど眠れなかったのになぜか目は冴えている。 学校なんて行ってる場合じゃなかったけれど、そのまま不登校になりそうだったので踏ん張った。 玄関を出ると門のところに山縣が立っていた。 「おす。昨日どうした?メール来なかったけど」 「ああ、うん、寝てた」 「寝てたってお前」 からからと笑う山縣がまぶしかった。 君を一人じめしたかったわけじゃない。そんなことできないのはわかってる。 …ただ僕も、余す所なく山縣の表情を見ていたいだけなんだよ。 「山縣ぁ…」 僕の声はもうほんのりと泣いていた。 俯いた視界の端に、たじろぐ君が見える。 そりゃそうだ、お前んちでハバネロ食ったときぐらいだもんな、僕が泣いたのなんて。 「岸…?」 君の声が心地良い。 こんなに悲しいのに、こんなに嬉しいなんておかしい。 君が好きだ君が好きだった昔からいつからか知らないけどいつも好きだったもう、君が僕を呼ぶそれだけで僕は。 「岸?なに泣いてんだよお前、なあ、どうしたの」 門を出て耐え切れずしゃがみ込んだ僕の肩に、山縣が手を置く。 漫画みたいだけど、君に触れられたところが熱くてたまらなかった。 「岸?おーい、岸ー?どうしたー?」 山縣は細長い手で、僕の背中をさすり始めた。 余計に涙が止まらない。 「やまがだぁ…」 そう言って僕が心も顔もぐっしゃぐしゃのままで顔を上げると、山縣は真剣な顔をして僕を見ていた。 真っすぐな真っすぐな瞳、きっと今は、穂波のことより僕のことを考えてくれている。 一生懸命な君が嬉しくて、ふいに口元が緩む。 「ぶふっ」 「あっ!?おい、なに笑ってんだよ人が心配してんのに!こら岸!」 「なんでもなかった。穂波のこと、おめでとう」 「え?うん。…うん?」 心臓はまだ痛いけれど、本当は一番に愛されたいけれど、僕だってもう充分に特別なんだと君を見て思い知った。 ありがとう山縣しあわせになれよ。 ----   [[攻め争奪戦>23-709]] ----

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