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両親とご対面 ---- マッチを持つ手がぶるぶると震えてうまく煙草に火を点けられないでいると、 助手席から白い手が伸びてきて、俺の代わりに点してくれた。 「あ、ありがとう」 「いいえ」 小野寺は頬を膨らませ、マッチの小さな火を消した。 普段余り見ない幼い仕草に、ほんの少しだけ心が和む。 「明石さん、そこ右です」 「ええっ、マジでぇ!?」 思いっ切りハンドルを切ったら、周りの車に短いクラクションで非難されて、心臓がとび跳ねた。 「次からもうちょっと早めに言って、俺まだ右折苦手だから」 「だって明石さんが一人でニヤついてるから」 ――わざとかよ。 一人じゃ煙草も吸えないほどいっぱいいっぱいなパートナーに、この仕打ちはあんまりだ。 「出た、小野寺くんの意地悪」 「意地悪というより、もともと根性が悪いんです」 「あーもう、親御さんの顔が見てみたいね」 「これから見に行くじゃないですか」 しれっとした顔で返されて、言葉に詰まった。煙草の煙を吐き出し、少し間を取る。 「嘘だよ、君が良い奴なのは俺が一番知ってるよ」 そんなくだらないやり取りをしながらも、カローラは着々と彼の実家に近づいていく。 「どどどどどうしよう、腹痛くなってきた」 「ここまで来て何言ってるんです」 「君にはこの扉を開けるのが俺にとってどれだけ重大なことかわからないんだ」 「あのね、確認しておきますけど、一人の先輩として紹介するんですから  何も緊張する必要はないんですよ。結婚するわけじゃあるまいし」 そこら辺は事前に二人で話し合って決めたのだが、それでもこの不安は拭えない。 小野寺のイライラがびんびん伝わってくる中、俺は更に口を開いた。 「だってさぁ、好きな人の大切な人に好かれたいって思うのは当たり前だろ」 どさり。小野寺が手に持っていたボストンバッグを落とした。 彼はこうやって直接言われるのに弱い。 俯いて首の後ろを触るのは、照れている時の癖だ。 ああくそ、かわいいな。しかしさすがに実家の玄関先ではキスもできない。 「……大丈夫です、明石さんは本番に強いから」 「それはそうだけどさぁ、俺、ちょお緊張しいなのよ」 「でもいつだって最終的には上手くやってみせるじゃないですか」 肩を軽く叩かれて、しゃんと背筋が伸びた。 俺も彼も、お互いの操縦法がよくわかっている。 小野寺は叱って伸びるタイプで、俺は褒められて育つタイプなのだ。 「俺、ちゃんと出来ると思う?」 「もちろん」 「よしっ、お邪魔しよう」 俺は冷え切った手でドアノブを回し、小野寺家に足を踏み入れた。 「一週間お世話になりました」 「明石さん、またいつでも遊びに来てくださいね」 目元が良く似ているお母さんが、お漬物を渡しながらそう言ってくれた。 「こんた子だがら大学じゃ友達も出来ねんじゃねがと思っとっだけど、  明石さんがいでくれるなら安心だす。こえがらもよろしくお願いします」 お父さんは訛りがきついが、笑顔が穏やかな人だった。 「いえ、僕の方こそ小野寺くんがいてくれて本当に良かったと思ってるんです。  いつも良くやってくれてますよ。友達も多いですし。」 荷物を積み終えた小野寺が、後ろから靴のかかとを踏んできた。 余計なことは言うなという意思表示だろう。 「それじゃ、失礼します」 「気付げてな」 バックミラーに映る二人は、姿が見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。 俺はハンドルを握りながら片手を振り返し、小野寺も振り返ってじっと後ろを見ていた。 「最後のアレ、ああいうの要らないんで」 「嘘も方便って言うだろ。嘘つくのが嫌なら友達作りなさいよ」 「……努力します」 「いやでも素敵なご両親だったな。君が大事にされてるのがよくわかったよ」 これは言わないけど、君が家族をとても大切にする人だと言うこともね。 「今度は明石さんのおうちに行きたいです」 「ええほんと?! 一体どういう心境の変化よ、嬉しいなあ」 「だって、好きな人の大切な人に会いたいって思うのは当たり前でしょう」 「言うよねぇ、小野寺くん」 ポケットを探って煙草を取り出すと、何も言わずに彼がマッチを擦ってくれた。 ああ、そう言えば彼のお母さんはお酌がとても上手だったし、 お父さんは見送りの際、お母さんの外履きを出してあげていた。 顔以外の部分も似ているんだなと思い、口元が緩んだ。 「明石さん、そこ右」 「ちょ、ちょっと! 早く言ってって頼んだじゃないかぁ」 カローラは二人を乗せて走る。ずっと走る。 ----   [[表示名>ページ名]] ----
両親とご対面 ---- マッチを持つ手がぶるぶると震えてうまく煙草に火を点けられないでいると、 助手席から白い手が伸びてきて、俺の代わりに点してくれた。 「あ、ありがとう」 「いいえ」 小野寺は頬を膨らませ、マッチの小さな火を消した。 普段余り見ない幼い仕草に、ほんの少しだけ心が和む。 「明石さん、そこ右です」 「ええっ、マジでぇ!?」 思いっ切りハンドルを切ったら、周りの車に短いクラクションで非難されて、心臓がとび跳ねた。 「次からもうちょっと早めに言って、俺まだ右折苦手だから」 「だって明石さんが一人でニヤついてるから」 ――わざとかよ。 一人じゃ煙草も吸えないほどいっぱいいっぱいなパートナーに、この仕打ちはあんまりだ。 「出た、小野寺くんの意地悪」 「意地悪というより、もともと根性が悪いんです」 「あーもう、親御さんの顔が見てみたいね」 「これから見に行くじゃないですか」 しれっとした顔で返されて、言葉に詰まった。煙草の煙を吐き出し、少し間を取る。 「嘘だよ、君が良い奴なのは俺が一番知ってるよ」 そんなくだらないやり取りをしながらも、カローラは着々と彼の実家に近づいていく。 「どどどどどうしよう、腹痛くなってきた」 「ここまで来て何言ってるんです」 「君にはこの扉を開けるのが俺にとってどれだけ重大なことかわからないんだ」 「あのね、確認しておきますけど、一人の先輩として紹介するんですから  何も緊張する必要はないんですよ。結婚するわけじゃあるまいし」 そこら辺は事前に二人で話し合って決めたのだが、それでもこの不安は拭えない。 小野寺のイライラがびんびん伝わってくる中、俺は更に口を開いた。 「だってさぁ、好きな人の大切な人に好かれたいって思うのは当たり前だろ」 どさり。小野寺が手に持っていたボストンバッグを落とした。 彼はこうやって直接言われるのに弱い。 俯いて首の後ろを触るのは、照れている時の癖だ。 ああくそ、かわいいな。しかしさすがに実家の玄関先ではキスもできない。 「……大丈夫です、明石さんは本番に強いから」 「それはそうだけどさぁ、俺、ちょお緊張しいなのよ」 「でもいつだって最終的には上手くやってみせるじゃないですか」 肩を軽く叩かれて、しゃんと背筋が伸びた。 俺も彼も、お互いの操縦法がよくわかっている。 小野寺は叱って伸びるタイプで、俺は褒められて育つタイプなのだ。 「俺、ちゃんと出来ると思う?」 「もちろん」 「よしっ、お邪魔しよう」 俺は冷え切った手でドアノブを回し、小野寺家に足を踏み入れた。 「一週間お世話になりました」 「明石さん、またいつでも遊びに来てくださいね」 目元が良く似ているお母さんが、お漬物を渡しながらそう言ってくれた。 「こんた子だがら大学じゃ友達も出来ねんじゃねがと思っとっだけど、  明石さんがいでくれるなら安心だす。こえがらもよろしくお願いします」 お父さんは訛りがきついが、笑顔が穏やかな人だった。 「いえ、僕の方こそ小野寺くんがいてくれて本当に良かったと思ってるんです。  いつも良くやってくれてますよ。友達も多いですし。」 荷物を積み終えた小野寺が、後ろから靴のかかとを踏んできた。 余計なことは言うなという意思表示だろう。 「それじゃ、失礼します」 「気付げてな」 バックミラーに映る二人は、姿が見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。 俺はハンドルを握りながら片手を振り返し、小野寺も振り返ってじっと後ろを見ていた。 「最後のアレ、ああいうの要らないんで」 「嘘も方便って言うだろ。嘘つくのが嫌なら友達作りなさいよ」 「……努力します」 「いやでも素敵なご両親だったな。君が大事にされてるのがよくわかったよ」 これは言わないけど、君が家族をとても大切にする人だと言うこともね。 「今度は明石さんのおうちに行きたいです」 「ええほんと?! 一体どういう心境の変化よ、嬉しいなあ」 「だって、好きな人の大切な人に会いたいって思うのは当たり前でしょう」 「言うよねぇ、小野寺くん」 ポケットを探って煙草を取り出すと、何も言わずに彼がマッチを擦ってくれた。 ああ、そう言えば彼のお母さんはお酌がとても上手だったし、 お父さんは見送りの際、お母さんの外履きを出してあげていた。 顔以外の部分も似ているんだなと思い、口元が緩んだ。 「明石さん、そこ右」 「ちょ、ちょっと! 早く言ってって頼んだじゃないかぁ」 カローラは二人を乗せて走る。ずっと走る。 ----   [[襲い受け>15-239]] ----

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