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高校生
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握った手は冷たかった。
もし見つかったら言い訳にしようと思った。どれだけ冷たいか確かめていたのだと。
幹隆はもう学校に来る必要がない。でも俺が来るから当然来る。
俺は最後の試験に向けての勉強と称して、幹隆が来る学校に毎日来る。
教室に暖房はなく、他に生徒はいない。みんな自習室か図書室、または暖かい自宅で猛勉強しているのだ。
ここにいるのは俺達だけ。物好きを先生もほっておいてくれる。
「センターの生物は楽勝だったのに……何、このえぐい過去問」
「今初めて見たんじゃなかろうな、今月末だろ? 余裕? っつーか無謀」
コートにマフラーぐるぐる巻きで、俺より真剣な顔で幹隆が問題を見てる。
俺の方も似たような格好で、問題なんか今さら興味ない。
「受かった奴はいーよな、寒いしマジで死にそう」
「受かる気はなかったんだけどね、いーかげん図書室行こうぜ」
「……人がいるから、いや」
鉛筆をにぎる手も凍えているから、俺はあっさりそれを投げて幹隆の手を握った。
「……ばか、やめとけって」
「いーじゃん、寒いんだよ」
「なんのために学校に来てんだよ」
幹隆が半笑いなので、俺も鼻で笑った。
わかりきってる。
「全然あったまらない」
「だって俺の手も冷たいし」
「あったまるようなことしたい」「馬鹿か、お前」
本当はキスしかしたことなかった。今は、手よりも唇のほうが暖かい気がした。
でも、これ以上距離をつめることは、怖くてできなかった。
「……早く大学生なりてー」
俺が言えばすかさず「今のままじゃ予備校生だろ」と幹隆が混ぜっ返す。
「一人暮らししたら遊びに来いよな」
「俺のとこにもな」
「あ、そーか……俺がダメでも幹隆のとこに行けばいいのか」
言外の意味を悟って、幹隆が困った顔をした。
幹隆は迷ってる。
卒業と同時に消えてしまいそうな、一時の気の迷いのような俺達の距離だった。
「……卒業すればもっと簡単になる」
言う俺にも、それが本当かどうかよくわからない。
「やめろよ」
抵抗されながら無理矢理キスした。
幹隆は頬まで冷たくて、触れるだけじゃ暖まりそうもなくて、それでも俺は短いキスしかできないのだ。
教室は短い日が陰って薄暗く、その暗さだけが俺達を守ってくれていた。
誰かが来たら終わり。
人を好きになるのは悪いことだった。同性なら、なおさら。
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[[高校生>23-349-1]]
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